定年再雇用巡り労使間トラブル
「恣意的」と訴訟も
60歳定年後の再雇用拒否をめぐる労使トラブルが続き、長年勤めた会社を相手に裁判に踏み切る人も出てきた。不本意なリタイアに追い込まれた「団塊の世代」たちは、「選別基準がおかしい」と訴えている。(清川卓史)
18日、大阪地裁。1月に電子機器製造会社を退職した男性(61)が、原告として法廷に立った。男性は「恣意的な人事評価で雇用延長が拒否された。組合役員として活動してきたことへの仕打ちだ」と訴える。
年金の満額支給は64歳からで、長女はまだ大学生。職を失い、生活設計は揺らぐ。一方、被告の会社側は「評価は公正で、勤務成績が悪かっただけ」と反論、譲らない。
こうしたトラブルのきっかけになったのは、06年4月施行の改正高年齢者雇用安定法だ。年金支給年齢の引き上げにあわせ、65歳までの雇用確保措置をとることが企業に義務づけられた。具体的には①定年廃止②定年引き上げ③継続雇用制度(再雇用など)のいずれかを実施しなければならない。雇用義務年齢は段階的に引き上げられ、13年度に65歳になる。
厚生労働省が08年に約9万社を対象に集計したところ、定年廃止・引き上げは少数で、8割を越す企業が継続雇用制度を導入していた。厚労省は「希望者全員の雇用が原則」と説明するが、全員を対象とする企業は実際には4割に満たない。各企業の実情を考慮し、労使が協定を結べば対象者を限定する基準をつくることが法で認められているからだ。労使が合意できない場合、経過措置として就業規則で基準をきめるのも可能だ。
厚労省は「上司の推薦がある者に限る」などの例を挙げ、意図的に特定の人を排除するような基準は不適切との見解だ。継続雇用をめぐる裁判では、この基準が客観的で納得できる内容かどうかが争点になっている。
大手製薬会社の営業部長を務めた男性(61)も就業規則の基準が壁になり、再雇用されなかった。職場復帰や損害賠償を求め、昨年から大阪地裁で会社と争っている。
男性は訴状で、基準の一部は客観性がないと批判。また「過去2年間の評価がすべてB以上で、A以上が1回以上ある者」との項目は、定年目前の社員にとってハードルが高すぎて違法と主張する。
「不況で現役社員の数も減らされている。定年退職者を全員雇うのは難しい」。ある大手企業の担当者がもらした本音だ。一方、定年者からすれば年金満額支給までの雇用機会が失われるのは痛手だ。中高年の労働者でつくる東京や大阪のユニオンには、継続雇用のトラブルの相談が続々と寄せられている。
近畿大学法科大学院の西谷敏教授(労働法)は、基準自体の客観性だけでなく、運用の透明性が求められると指摘。「例えば『仕事への熱意』など主観的判断の余地を残す基準については、評価結果の説明責任が企業側にある。客観性を欠く評価や運用が広がれば、『希望者全員』という法の精神が有名無実になる」と懸念する。
(朝日新聞-労働問題-)