採用後に最終学歴詐称が発覚、解雇は妥当か?
Q:就職する際に大学中退の経歴を高卒と偽って採用試験を受けていた30代男性。入社後に大学中退の経歴を隠していた事実が発覚。人事担当者から「就業規則違反で解雇処分に該当する」と言われた。全くウソの学歴を申告していたわけでもなく、解雇処分には納得できないと憤る。この場合、解雇は妥当か?
A:一般に採用試験の受験者は、学歴や職歴などを記載した履歴書を提出する必要がある。履歴書は能力や適正の判断材料になるので、正確に記載しなければならない。ところが「経歴ほどの実力がない」などの理由から、自らの学歴を低く申告するケースもある。志望者側が「高校を卒業したのは事実で、全くウソというわけではない」と考えがちなのも、こうした経歴の詐称につながっているようだ。学歴を高く詐称するのではなく、低く詐称するのならば問題はないのだろうか。労働法実務に詳しい嘉納英樹弁護士は、学歴を高く詐称するか低く詐称するかに関係なく、虚偽の学歴を申告する行為自体が問題と指摘。「最終学歴の詐称は重要な経歴詐称とみなされ、解雇処分になる可能性が高い」と話す。
公務執行妨害罪による逮捕をきっかけに、大学中退の最終学歴を高卒と偽っていた点が明らかになった社員の懲戒解雇の是非が争われた裁判で、東京高裁は1991年、「最終学歴は労働力評価や企業秩序の維持に関する事項であり、真実を申告する義務がある」との判断を示している。過去の裁判例をみる限り、最終学歴の詐称は重要な経歴の詐称に当たり、懲戒解雇になる可能性が高い。犯罪歴はどうか。東京高裁の懲戒解雇を巡る裁判では、社員が採用時に刑事裁判の公判中で保釈中であったことも明らかになった。
会社は「勤務への影響などを判断する必要があるから、刑事事件の公判中であることを会社に告知すべき義務があった」と主張したが、裁判所は「公判継続の事実について積極的に申告すべき義務があったといえない」と判示し、会社の主張を認めなかった。
採用ルールなどを定めた職業安定法は、採用目的に必要な範囲で求職者の個人情報を収集しなければならないと規定する。「犯罪歴は能力と適正と無関係。本籍や親の資産状況と同じように必ずしも申告しなくてもよい」(嘉納弁護士)が、学歴詐称は問題となるので注意したい。