残業代の制限
残業代の制限
事前申請分しか支払わないのは適法か?
当社では残業をする場合、本人の事前申請と上司の承認が必要ですが、従来は実際の労働時間を基準に残業代が支払われていました。ところが先日、経営陣が「事前申請の時間を超えたら実際に働いていても残業代を支払わない」と決めました。これは違法な人件費削減ではないのですか。
創業10年余りのIT企業に勤める女性からの相談です。
残業代支払の対象となる時間外労働と認められるためには使用者の指揮監督下にあったことが法律上の要件となっています。では、例えば、ある社員が事前に2時間と申請したのに実際は3時間の残業をした場合、使用者が「指揮監督していない」として1時間分の割増賃金を支払わないことが許されるでしょうか。
いつでもできる仕事なのに、あえて会社に残っていたことが明白であるなら話は別です。しかし、客観的に見てその日のうちに処理しなければならない仕事であれば、事前申請の時間を超えたとしても、その社員は、使用者が暗に了解して指揮監督下で働いていた、と認められます。
労働契約は、一定時間の労働に対して賃金が支払われるものです。そこが成果に対して報酬を得る請負契約と決定的に異なります。「仕事ができる人ならもっと早く終わる」と言う経営者がいるかもしれませんが、それは能力評価を給与に反映させる仕組みで処遇すべき問題です。実際に働いた時間に対する賃金は支払うのが原則であり、労働者には働いた時間分の賃金の請求権が発生します。
ただし、上司の事前承認で残業を管理する仕組み自体が不当というわけではありません。労働者の健康維持の観点からも、使用者には労働時間を管理する責任があります。無理な長時間労働にならないようにチェックすることは、むしろ必要なことなのです。
ここで問われるのは、それぞれの社員に割り振られた仕事が、所定内労働時間で終わる適正な分量かどうかです。近年のリストラや採用抑制でどの職場も社員に1人当たりの仕事量が増えている現実があると思います。それを放置しながら「我々は命じていない」と残業代の不払いを正当化することが許されないのは、言うまでもありません。
・当日に処理が必要なら、申請時間超過でも残業代発生
・事前承認で社員の労働時間を管理すること自体は正当
・所定時間で終わらぬ仕事量なら残業黙認とみとめられる
(朝日新聞 ―労働問題―)