要介護の親がいるのに転勤を命じられたら?
Q:要介護の親がいるのに転勤を命じられたら?
東京の電気メーカーに勤務する50代の男性会社員。会社から福岡支社への異動を打診されたが、同居する80歳の母の介護をしなければならない。
妻は専業主婦だが、母と折り合いが悪いので自分が世話をしたい。転勤を断れるだろうか?
A:会社側に配慮する義務
育児・介護休業法は、働く人が育児・介護と仕事を両立できるよう、休業や勤務時間短縮、深夜労働の制限など様々な方策を設けている。転勤についても「労働者の育児や介護の状況に配慮しなければならない」と事業主に義務付けている。具体的には、企業が転勤を命じる際には①従業員の育児・介護状況を把握する。②労働者本人の意向に配慮する。③育児・介護の代替え手段があるか確認する。- などを求めている。 同法は要介護の過程を抱える従業員について、転勤の禁止まで定めているわけではない。しかし、労働問題に詳しい石井妙子弁護士は「企業の配慮義務は重く、介護の問題を抱える労働者を本人の意向に反し転勤させるのは難しい」と指摘する。
「家庭」とは配偶者(内縁関係を含む)、父母、子、配偶者の父母ら。同居しているか、扶養しているかは問わない。また、祖父母や兄弟姉妹でも同居し、かつ扶養している場合は同法が適用される。 これらの家族が「常用介護を必要とする状態」である場合が対象だ。具体的には▽歩行、排泄、食事、入浴、着脱衣などの介助が必要 ▽攻撃的行為、自傷行為などの問題行動がある ー といった場合に要介護と見なされる。
育児休業は育児できる配偶者がいる場合は申請できない。しかし、介護の場合は配偶者の状態を問わず適用される。例えば配偶者が専業主婦でも、妻が夫の両親を介護すべきかどうかは家庭の事情や考え方によって異なる。妻が介護できるからといって夫からの申し出を断ることはできない。
既に多くの企業は従業員を転勤させるとき家庭の事情を考慮している。 「トラブルになりやすいのは会社と労働者の意思疎通が不十分なとき」(石井弁護士)。 まさか転勤は無いだろうと高をくくって家族の介護について会社側に話さないでいると、突然の転勤命令で慌てることになりかねない。 会社側も人事評価の面談などで、介護の必要な家族がいないか、転勤は可能かといった点を聞いて、日ごろから従業員の事情を把握する必要がある。(労働問題-日経新聞)