セクハラに該当する?
Q:40代の男性管理職。部下の女性社員がにおいの強い香水をつけている。職場の仲間も気にしている。上司として、香水について女性に注意することがセクシュアル・ハラスメント(=セクハラ、性的嫌がらせ)にならないが心配だ。
A:外資系企業の法務部勤務経験がある森原憲司弁護士はセクハラについて「相手がセクハラと感じ」、かつ客観的にも「違法か、違法でないとしても人の価値観や社会通念に反する行為」を指すと説明する。最近は「違法でないからセーフとか、女性が嫌がるからアウトなどと判断基準を勘違いしがちだ」(同弁護士)と指摘する。
この基準によれば、相談例の場合は原則、セクハラには該当しないという。職場の環境や秩序を乱す恐れがあるため上司の責務で正す必要がある。客観性を保つため、本当ににおいは強いか職場の仲間に確かめるべきだ。
では、外勤の営業担当者の場合はどうか。労働問題に詳しい中村克己弁護士は「勤務する会社の看板を背負って仕事をするので、においに対する許容度は内勤に比べて低いだろう」と話す。会社の印象が悪化し、顧客が離反しかねないからだ。とはいえ、従業員の身なりについて注意することは「企業秩序の維持を目的とした『労働者の自由の制限』にかかわる」(中村弁護士)。だが、業務に支障をきたす場合を除き、業務命令として禁止することはできないという。
身なりに関する就業規則違反をめぐる処分について判断した裁判例がある。トラック運転手が茶髪などを理由に解雇された事例で、1997年に福岡地裁小倉支部は「企業が秩序の維持を名目に労働者の自由を制限する場合、制限行為の内容は必要性・合理性・手段方法としての相当性を欠くことがないよう特段の配慮が要請される」などと判断し、解雇は無効とした。
セクハラにならなくても、注意の仕方に気をつける必要がある。森原弁護士によると「気に入らない」と言うのはもってのほかだ。「香水をつけなくても魅力的」と言うのはセクハラになりかねない。女性の管理職と一緒に注意するのも一法だ。
*セクハラの主な定義
社会学的には、歓迎されない性的言動または行為により屈辱や精神的苦痛を感じさせてりすること、性的な言動または行為によって相手方の望まない行為を要求し、これを拒んだ者に対し、職業、教育の場合で人事上の不利益を与えるなどの嫌がらせに及ぶこととも定義される。(97年、東京地裁判決)
①犯罪となるもの
(例)レイプ、痴漢、性的うわさを流すなどの名誉棄損、ストーカーなど
②民事上違法と判断されるもの
(例)食事やデートに執拗に誘う、わいせつ文書を送りつけるなど
③法的に違法とまではいえないが、人々の価値観や社会通念に反する行為
(例)女性だけに私用を頼む、カラオケのデュエット、お酌をさせるなど
*ポイント
①職場の環境や規律を正すのは、基本的には上司の責務
②注意の仕方や言い方によっては問題になる場合も