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中野人事法務事務所中野 泰(なかの やすし)

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口頭による退職願いの効力はあるか?

ある従業員が上司から叱責を受けたところ、
「それなら私は会社を辞めます!」と発言し、
そのまま帰宅し、会社に出勤しなくなりました。

その後、本人に連絡を取って確認したところ、
「会社は退職するが、退職願は提出しない。」と主張。

一方、就業規則には、退職に当たって
「退職の事由を記載した退職願を提出しなければならない。」
という条文があります。

この場合、会社としては退職扱いとしてよいのでしょうか?

結論から申し上げると、本人が会社を辞めたいと
明確に意思表示している場合には、
退職として処理しても構いません。

退職という判断は従業員にとって非常に重要な事柄です。
これを受けて、上記の就業規則の条文は
退職願は書面によるべきであり、
口頭による退職願は原則として認めないという趣旨と思われます。

「従業員が退職しようとするときは、
 事由を詳細に記した退職願を提出し、
 協会の承認を受けなければならない」
という就業規則の規定について、
裁判所が次のように判示しています。

「(この規定は)従業員が退職するに際し、
 その時期、事由を明確にして、
 使用者に善後措置を講じさせて
 企業運営上、無用の混乱を避けるとともに、
 他方、従業員が退職という雇用関係上
 最も重大な意思表示をするに際しては、
 これを慎重に考慮させ、
 その意思表示をする以上はこれに疑義を残さないため、
 退職に際してはその旨を書面に記して提出すべきものとして、
 その意思表示を明確かつ決定的なものとし、
 この雇用関係上、最も重要な法律行為に
 紛糾を生じさせないようにするとともに、
 書面による退職の申し出がない限り、
 退職者として取り扱われないことを
 保障した趣旨であると考えなければならない。」
 (昭和38年9月30日 横浜地裁判決 全日本検数協会事件)
 (就業規則の条文、判決文ともに読みやすいように一部改変)

判決文を読む限り、就業規則に「退職願の提出」が
義務づけられている規定は、
ある意味、従業員を守るためのものだと読み取れます。

ただ、その従業員が退職願を出さないからと言って、
退職を認めないというのも不合理な話ですので、
本人の退職意思が明確なのであれば、
口頭による退職の意思表示でもよいとする結論です。

なお、実務上、私どもが心配するのは、次の点です。

 ★今は『退職』と言っているけれど、
   後日いきなり『辞めさせられた。不当解雇だ!』
   等と言ってこないか?

言った・言わないの世界は極力避けた方が無難です。
状況にもよりますが、極力退職願を入手して、
本人の意思を客観的に証明できるようにした方が
無難であることは間違いありません。

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