会社法・商業登記入門第10回「株式会社とLLP(有限責任事業組合)の比較・活用法」
こんにちは。中央区の司法書士の大越です。
このコーナーでは、平成18年5月1日に施行された会社法及びそれに関する商業登記について、平易な言葉で分かりやすく説明していきます。
毎回テーマを決め、これから起業を考えている方および現在会社を経営している方にも役立つ情報を提供していきたいと考えています。
第10回は、「株式会社とLLP(有限責任事業組合)の比較・活用法」について説明します。
1.LLP(有限責任事業組合)とは
LLPとは「有限責任事業組合」の略称で、平成17年8月から施行されている「有限責任事業組合契約に関する法律」(以下「LLP法」といいます。)に基づき設立する組合です。
LLPは、共同研究開発を行いたい場合の他、産学連携、高度サービスにおける起業、中小企業同士の連携等での利用が期待されています。
LLPが他の事業体と大きく異なる点は次のとおりです。
(1)民法上の組合と異なり、出資者は、出資価額を限度として責任を負う「有限責任」であること(LLP法15条、民法675条)。
(2)株式会社とは異なり、法人課税ではなく、配当を受けた組合員に直接課税される構成員課税であること。
(3)LLPの業務執行決定の要件として、総組合員の同意が原則だが、その要件を緩和することができること(LLP法12条)。
(4)出資額に関わらず、損益を自由に分配できること(LLP法33条)。
株式会社と大きく違うのは、LLPは当事者間の契約であり、法人格がないことでしょう。
2.LLPはどんな時に使える?
LLPは契約なので、2人以上集まらなければ結成できません。そのため、1人で事業を行いたい場合には使えません。
各々の会社又は個人が自己のメイン事業などはそれぞれ別に行っているものの、「ある部門は自社にとって弱い部分なので補完したい」「ある分野の専門家だが、それ以外の分野の知識が弱いので、今いち仕事に広がりがない」などを考えたときに、LLPを結成し、相互補完することが可能になります。
株式会社や合同会社(LLC)のように、1つの組織にすることもアリですが、各々別個に事業をやりつつ、必要な時に協力するという場合には、LLPの方が適しています。
単なる業務提携でもいいかもしれませんが、LLPを1つ作ることにより、メンタル的にも実質的にも、お互いの結びつきがより強くなるでしょう。
3.LLPの設立方法
LLPの設立手続の流れは次のとおりです。
(1)LLP契約の締結及び組合契約書の作成
LLP契約の締結には、法定の要件を備えた組合契約書を作成しなければなりません。
組合契約書には、LLPの事業、LLPの存続期間、組合員の出資の目的及びその価額など、LLP法4条3項各号に定める事項を最低限記載する必要があります(絶対的記載事項)。これらの記載に不備があった場合には、契約全体の効力が生じないことになります。
①LLPの存続期間
会社と異なり、LLPでは一定の存続期間(LLP法4条3項6号)を定める必要があります。共同研究開発など、特定の目的のために結ばれた契約であり、会社のように半永久的に存続することが想定されていないからです。
しかし、後々の事情によって、当初定めた期間よりも長く、LLPを継続したい場合もあるので、組合契約書の変更により、存続期間の延長をすることも可能です(LLP法5条)。
②組合員の出資の目的及びその価額
組合員が出資の目的とすることが出来るのは、金銭又は金銭に換算することの出来る財産に限られており、信用や労務の提供のような、非財産性であるものを出資の目的とすることは出来ません(LLP法11条)。
しかし、財産なら、特許権等の知的財産権も出資の目的として認められています。
(2)出資にかかる払込または給付の全部の履行
出資の目的が金銭の場合は、その全額の払込を、金銭以外の財産を出資の目的とした場合には、その全部の給付を所定の期日までにする必要があります。
(3)職務を行うべき者の選任
組合員が法人の場合、組合員として職務を行うべき者の選任する必要があります(LLP法19条1項)。
(4)LLP契約の効力発生日の到来
(5)LLP設立(LLP契約)の登記申請(LLP法57条)
登録免許税は、出資額に関わらず金6万円です。
4.まとめ
上記のとおり、1人ではできなかったワンストップサービスや付加価値の高いものの提供などを外部にアピールする手段として、LLPは活用できます。
そして必ずしも大企業でなくとも、私たち個人間の集まりで気軽に利用できる制度です。
しかし、LLPは内部自治を自由に決められる反面、損益や権限の分配などで紛争になるケースも多々考えられます。
したがって、理想の活用法は、LLPはあくまで仕事や顧客獲得の窓口として利用し、その中で受注した案件を、それぞれ専門担当に振り分けることです。
そのためには、極力少数精鋭にし、かつ同業種が同じLLP内に複数・多数いるような状況は避けるべきでしょう。
また、LLPの契約書は、会社の定款のように絶対的記載事項だけを定めれば、組成可能ですが、折角契約書なので、組成当初に極力細部まで(特に損益分配と権限の部分)定めるべきです。
是非ともこれから他者との業務提携を考えている人は選択肢の一つにLLPを入れてみてください。
次回は、「会社法で活用法が増えた種類株式~譲渡制限株式~」を予定しています。