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会社法・商業登記入門第14回「会社法で活用法が増えた種類株式~議決権制限付株式、拒否権付株式~」

こんにちは。中央区の司法書士の大越です。

このコーナーでは、平成18年5月1日に施行された会社法及びそれに関する商業登記について、平易な言葉で分かりやすく説明していきます。
毎回テーマを決め、これから起業を考えている方および現在会社を経営している方にも役立つ情報を提供していきたいと考えています。

第14回は、「会社法で活用法が増えた種類株式~議決権制限付株式、拒否権付株式~」について説明します。

1.議決権制限付株式とは
 議決権制限付株式とは、株主総会において議決権を行使することができる事項について他の株式と異なる定めをした内容の株式です(会社法第108条1項3号)。
 株主は、1株につき1議決権を有するのが大原則です。
 ですが、この株式によって、議決権行使の制限が可能です。議決権が全く無い無議決権株式とすることも可能です。
 さらには、一定の決議事項のみ議決権を与えることや、議決権行使に条件を定めることも可能です(会社法第108条2項3号)。
 したがって、経営参加に興味のない投資家には、議決権制限付株式にする代わりに発行価格を安くし、投資しやすくすることも考えられます。
 一方で、普通株式を発行して増資を行うと、資金調達額によってはオーナーの議決権比率が大幅に下がり、会社経営上好ましくありません。発行する株式を議決権制限付株式にすれば、オーナーの議決権比率に影響を与えませんので、議決権比率を気にすることなく資金調達が可能です。

2.拒否権付株式とは
 拒否権付株式とは、株主総会(取締役会設置会社においては、取締役会も含みます。)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、拒否権付株式を有する株主の種類株主総会の決議を必要とする内容の株式です(会社法第108条1項8号)。
 いわゆる「黄金株」と呼ばれている株式です。
 拒否権を有している事項であれば、株主総会(又は取締役会)でどれだけ多数の賛成を得たとしても、拒否権付株式の種類株主総会で反対すれば、当該決議事項は効力を生じません。
 拒否権の内容は、あまりに広範囲に定めると、会社の意思決定を常に拘束されることになるので、通常はM&A、代表取締役の選解任等会社にとって影響の大きい事項のみ定めます。
 そして、拒否権付株式が第三者に譲渡されるのを避けるために、譲渡制限付にします。

 なお、上場会社の場合、買収防衛策としての利用が期待されますが、影響力が非常に大きいので、東京証券取引所では原則として黄金株の発行を控えるように要請されています。

3.定款記載例
 議決権制限付株式及び拒否権付株式を発行する場合、他の種類株式と同様に、その内容を定款に定め、登記する必要があります。
 定款記載例はそれぞれ以下の通りです。
 ①議決権制限付株式(無議決権株式の場合) 第○条 甲種類株式を有する株主は、株主総会において議決権を行使することができない。

 ②議決権制限付株式(特定事項のみ議決権を与える場合)
 第○条 甲種類株式を有する株主が、株主総会において議決権を行使することができる事項
 は次のとおりとする。
 ①合併
 ②会社分割
 ③株式交換又は株式移転
 ④解散
 ⑤拒否権付株式
 
 第○条 当会社が、次に定める事項を法令又は本定款で定める決定機関で決議するときは、 
 当該決議のほか、甲種類株式を有する株主を構成員とする種類株主総会の決議を要する。
 ①代表取締役の選定
 ②取締役の解任
 ③当会社の子会社以外との合併

4.資金調達と議決権制限付株式
 前述の通り、オーナーの議決権比率確保のために、議決権制限付株式を発行することは考えられますが、単に議決権制限付をするだけでは投資家にメリットがないので、工夫が必要でしょう。
 一般的には、発行価格を下げる又は配当を優先して投資家に利益を与える方法です。
 特に剰余金の配当は、全て普通株式の場合にはオーナー株主の配当が一番多くなり、投資家に出資するメリットが少ないですが、投資家の種類株式の配当が優先されるのであれば、投資してくれる投資家は多くなるでしょう。
 さらには、オーナー株式の内容に、剰余金の配当や役員報酬の議決権制限を加えることによって、より投資家にとってメリットの強い株式にすることも可能です。
 とはいえ、余りに投資家にメリットのある株式を発行すると、会社経営上好ましくないので、内容については慎重になる必要があります。

 一方で、投資家にとって影響のありそうな事項のみ議決権を与える方法も考えられます。
 具体的には増資や新株予約権の発行は、投資家の議決権・配当比率に影響を与えるので、当該事項のみ議決権を与えるやり方です。他にも役員選解任に議決権を与えることにより、役員の暴走を監視できるのであれば、投資家としても出資しやすいと思われます。

5.事業承継と拒否権付株式
 前述の通り、拒否権付株式は1株でも非常に効力が大きい株式です。
 中小企業での効果的な活用方法として考えられるのが事業承継です。
 オーナー株主が経営権を息子・役員等の後継者に譲渡する際に、通常はオーナー所有の株式を全て譲渡します。
 ですが、そうするとオーナーは今後一切、会社の経営に口を出せなくなります。
 一部だけ譲渡する場合でも、オーナーの発言権は格段に低くなるでしょう。
 事業承継後は経営に興味のないオーナーであればそれでも構いません。
ですが、後継者に完全に任せるのは不安がある場合には、合併・役員選解任等重要な事項のみ拒否権を定めることによって、後継者の暴走を監視することができます。
 但し、この拒否権付株式が相続で他の相続人に承継されないよう、オーナー株主の遺言で調整するか、拒否権付株式自体が相続を理由に会社取得又は無効となるよう規定しておくことが必要です。

6.まとめ
 議決権制限付株式及び拒否権付株式は、非常に柔軟な定め方が可能なので、利用方法は多いでしょう。
 ですが、会社やオーナー株主にメリットがある事項だけではないので、発行する際には内容を慎重に検討する必要があります。
 登記手続も含めて、議決権制限付株式又は拒否権付株式の利用を検討する場合には、専門家に相談されるのが宜しいでしょう。
 次回は、「募集株式発行の方法~デット・エクイティ・スワップ(DES)を中心に~」を予定しています。

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