会社法・商業登記入門第16回「募集株式発行の方法~会社法下での新制度!総数引受契約方式~」
こんにちは。中央区の司法書士の大越です。
このコーナーでは、平成18年5月1日に施行された会社法及びそれに関する商業登記について、平易な言葉で分かりやすく説明していきます。
毎回テーマを決め、これから起業を考えている方および現在会社を経営している方にも役立つ情報を提供していきたいと考えています。
第16回は、「募集株式発行の方法~会社法下での新制度!総数引受契約方式~」について説明します。
1.会社法下での募集株式発行の方法
特定の第三者に株式を割り当てる(以下「第三者割当」という。)場合の募集株式発行の手続スケジュールは、一般的に次のとおりとなります。
a)非公開会社かつ取締役会設置会社の場合
①株主総会の特別決議による募集事項決定(会社法199条)
*募集事項決定の一部を取締役会に委任することも可能です(会社法200条)。
②株式申込予定者に対し募集事項等の通知(会社法203条1項)
③株式申込者による株式申込証の交付(会社法203条2項)
④取締役会決議による株式割当者決定(会社法204条1項、2項)
⑤株式割当者に対し、株式割当の旨通知(会社法204条3項)
*払込期日の前日までに通知する必要があります。
⑥出資金の払込
⑦登記申請
b)公開会社の場合
①取締役会決議による募集事項決定(会社法199条、同法201条)
②株主全員に対する募集事項の通知又は公告(会社法201条3項、4項)
*払込期日の2週間前までに通知又は公告する必要があります。
③株式申込予定者に対し募集事項等の通知(会社法203条1項)
④株式申込者による株式申込証の交付(会社法203条2項)
⑤株式割当者決定(会社法204条1項)
*譲渡制限付株式を交付する場合には、取締役会決議で決定する必要があります(会 社法204条2項)。
⑥株式割当者に対し、株式割当の旨通知(会社法204条3項)
*払込期日の前日までに通知する必要があります。
⑦出資金の払込
⑧登記申請
2.総数引受契約方式の利用
しかし、第三者割当の場合、会社が株主総会を行う前に、既に引受先が決まっていることが多いです。
特に、非公開会社では、私の経験上そのようなケースがほとんどです。
既に引受先が決まっており、かつ出資金の払込が確実な場合には、総数引受契約を締結することにより、上記スケジュール中、非公開会社では②~⑤が、公開会社では③~⑥の手続を省略することが可能です(会社法205条)。
なお、総数引受契約とは、引受先と会社との間で、今回発行する株式の全部を引き受ける契約です。
これにより、スケジュールを短縮し、かつ形式的で些末な書類を複数作成・送付等をする必要がなくなります。
総数引受契約に最低限定める必要がある事項もそれほど多くありません。
具体的には次のとおりです。
<総数引受契約に定めるべき事項>
①引受先が、会社の発行する株式を引き受ける旨
②割当する株式数及び株式の内容
③1株の払込金額
④払込期日及び払込を会社の定める金融機関にする旨(現金の場合)
⑤会社と引受先双方の記名・捺印
上記事項の他にも一般的な投資契約書に盛り込まれる事項(例えば、「株式買取請求」・「会社設立登記していること等一定の事項が真実であることを確認する表明保証」に関する事項などです。)を適宜入れた契約書でも構いませんし、登記添付書類となること鑑み、上記事項だけを記載した契約書を作成することもできます。
また、引受先は1人(1社)である必要はなく、複数人でも手続可能です(複数人の場合は、それぞれの引受株式数の合計が、今回発行する株式数と一致する必要があります。)。
3.まとめ
総数引受契約方式によれば、株主が一人又は役員のみというように株主総会を開催することがいつでも可能な会社の場合、明日にでも増資をすることが可能です。
しかし、手続が簡便になるとはいえ、短時間に手続を行うことは慣れていないと難しいでしょうから、増資を検討されている会社は司法書士である当方に是非ご相談ください。
次回は、「株式譲渡・名義書換の手続~株券発行会社と株券不発行会社の違い~」を予定しています。