会社法・商業登記入門第19回「新株予約権を実際に発行している会社が注意すべきこと~消滅と消却の違い~」
こんにちは。中央区の司法書士の大越です。
このコーナーでは、平成18年5月1日に施行された会社法及びそれに関する商業登記について、平易な言葉で分かりやすく説明していきます。
毎回テーマを決め、これから起業を考えている方および現在会社を経営している方にも役立つ情報を提供していきたいと考えています。
第19回は、「新株予約権を実際に発行している会社が注意すべきこと~消滅と消却の違い~」について説明します。
1.新株予約権の消滅
新株予約権者が、発行会社から付与された新株予約権を行使した場合、行使価額に定めた金銭等を払込する対価として、発行会社の株式を所定数取得します。
この場合、新株予約権者が行使した分の新株予約権は消滅します。
したがって、消滅した分の新株予約権変更登記と増加した株式数及び資本金額の変更登記をする必要があります。
但し、新株予約権の行使に伴う変更登記は、月末締めで行えば足ります(会社法915条3項)。
一方で、行使の場合以外にも、新株予約権者が、保有する新株予約権を行使することができなくなった場合には、当該新株予約権は消滅します(会社法287条)。
行使することができなくなった場合とは、①権利行使期間の満了②新株予約権の放棄③行使条件に該当しなくなった時のいずれかに該当することです。
前回解説した通り、ストック・オプションのための新株予約権の場合、行使条件に役員や従業員の地位を有することを定めるのが一般的です。
そのため、役員及び従業員(以下「役員等」といいます。)が退任又は退職することによって、行使条件に該当しなくなった場合には、原則として、当該役員等が保有している新株予約権は消滅します。
もちろん、これに限らず、行使条件に記載した事項に該当しなくなった場合には、役員等が保有している新株予約権は消滅します。
そして、役員等が保有していた個数分の新株予約権及び交付予定分の株式数を減少する旨の新株予約権変更登記(以下「変更登記」といいます。)申請を行う必要があります。
なお、行使の場合と違い、退職日が登記原因年月日となりますので、退職日から2週間以内に変更登記申請する必要があります(会社法915条1項)。
したがって、退職日は従業員によって異なりますので、原則として従業員の退職の都度、変更登記申請することになります。
変更登記を申請する場合、1件につき3万円の登録免許税を納付する必要がありますので、会社の負担額も少なくないと思われます。
また、変更登記申請を怠ると、会社の代表取締役が100万円以下の過料の制裁を受ける可能性がありますので、ご注意ください(会社法976条1項1号)。
2.新株予約権の取得事由の利用方法
上記の通り、新株予約権の消滅の都度、変更登記申請をするのは大変かつ費用がかかりますが、それを解消する方法があります。
それは、取得事由に「新株予約権者が退職した場合には会社が無償で新株予約権を取得する」旨定めることです(会社法236条1項7号イ)。
取得事由に該当した場合、会社は当然に新株予約権を取得することになりますが、別途消却手続をしない限りは、新株予約権の個数に変動がないため、変更登記申請は不要です。
したがって、会社はある程度自己新株予約権の個数が多くなった任意の時期に消却手続を行い、一括して変更登記申請を行うことが可能です。登録免許税は1件の変更登記につき3万円なので、その都度変更登記申請するよりも大幅に費用軽減が可能です。
但し、本例の行使条件を定めた会社の意図が、一度退職した場合には、会社が他社への譲渡を想定せず、かつ再就職した場合にも新株予約権の行使を認めないものであるときは、取得事由を定めたとしても、新株予約権の消滅は免れませんので、ご注意ください。
3.新株予約権の内容の事後的変更
上記のような取得事由を追加したい場合等、新株予約権の内容を事後的に変更することも可能です。
会社法に明文はありませんが可能と解されており、実務上も可能です。内容を変更した場合にはその旨の変更登記申請が必要です。
但し、変更手続をする場合、発行時と同様の機関での承認決議(株主総会や取締役会)だけでなく、新株予約権者全員の同意が必要ですので、ご注意ください。
4.まとめ
上記の通り、新株予約権を発行した後も、消滅(又は取得)・行使の場合等会社が行うべき事項が多々あります。
ですが、役員等多数の者に新株予約権を付与している場合、退任又は退職した際には、会社の業務の引継ぎに注力し忙しくなるため、新株予約権の管理を失念しがちです。あらかじめ新株予約権の管理者を定め、管理者には常に変更登記等の必要性を意識させておくのが宜しいかと思います。
次回は、「株主総会開催の基本」を予定しています。