経営者仏教と三句の法門(1)
「三句の法門(3つの大切な教え)」は、「菩提心を因と為し、大悲を根本と為し、方便を究竟と為す」という言葉で、大日経(密教の主要な経典)の第一章「入真言門住心品」にあります。「悟りを求める心が原因で、思いやりの心を土台とし、具体的な手段・方法論が究極である」というような意味でしょう。これを社会の第一線に立つ経営者の視点で読み解いてみました。
原文 経営的な意味 経営者の資質
菩提心 健全な向上心 健全な自己イメージ
大悲 思いやり、社会貢献の心 素直さ
方便 具体的手段・方法論 要領の良さ
第一句の「菩提心を因と為し」は、健全な向上心の大切さを説きます。経営者であれば「自己の向上」「会社の発展」を願うのも菩提心でしょう。大乗仏教は大きな船で、皆で彼岸を目指します。それを心の問題に留めず、社会への働きかけにまで及ぼすのが私のイメージする経営者仏教です。経営者は現実を救済する僧侶なのです。曼荼羅を眺めると、実際に「心の世界はビジネスにつながる」と教えているようなのです。
向上心の強い経営者は多いと思います。向上心の強さゆえに周囲とぶつかり、自分の不甲斐無さに嘆きます。これも修行なのです。人間は余裕があると良からぬ考えを起こし、悪事を働きやすくなります。自分を追い詰め出し切ると、能力がさらに開発され「創造と挑戦」の回路が働き出します。困難な仕事にチャレンジするからこそ、神仏の加護を頼むのです。現実逃避や暇つぶしに神仏を使っては、経営者として勿体無いと思います。
私は「創造と挑戦」こそが、経営者を輝かせると考えております。船井幸雄氏の説によれば、人はやる気と努力、素直さと環境がそろえば、誰でも人材に育つそうです。他人の指示では1の仕事しかできなくても、納得して進んで仕事に取り組めば、1の指示に対して1.6倍の結果が出るそうです。
さらに最初から自分で考え計画を立てて取り組めば、「1.6の2乗(約2.5)」倍の仕事ができるそうです。経営者は結果が出やすい、成長しやすい環境にいますが、私はさらに「創造と挑戦」を意識する事で、1.6倍(合計すると4倍)の成果が得られると確信しております。そしてこの状態を目指す事こそ経営者仏教の修行なのです。
一方人には「分」があります。これも重要です。分を越えた向上心は不健全で、自己不信を招くのみならず社会の害悪になりかねません。やりたい気持ちが空回りして周囲への思いやりに欠ける決断を産みます。向上心の健全さは自分でしか判断できません。自分でも分からないときは、「動機善なりや、私心なかりしか」という稲盛氏の判断基準が参考になります。
力を出し惜しむ若隠居も、分を越えた夢想家も、「創造と挑戦」とは無縁です。ご縁を頂き経営者となり、社会から人と資金を預けられたからには、自分を知り、かといって自分に甘えず、与えられた能力を惜しみなく出し切る覚悟こそ、経営者仏教の菩提心と言えるのでしょう。