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沼田の感性の記事一覧

諸人を信者にするビジネス

先日オフィスデザイン会社を訪問しました。A社長の持論は「オフィスを格好良くしても業績は上がらない」、そこで顧客の企業理念や経営戦略を現場で詳細にヒアリングし、能力と個性を最大限に引き出すオフィス環境を提案するのだそうです。素人目にはかなりのノウハウをお持ちのようでした。
 しかし・・・美しい展示場のようなオフィスを見て、ベンチャー企業にこんなお金が払えるだろうか・・・そこで率直に「通常の業者の何割程度高くなるのですか?」とうかがいました。するとU社長は「実は相当安くなるケースが多いんです」と言うのです。
 守秘義務のある話かもしれませんが、一端をご紹介申し上げます。
 「まず営業部門がありません」「当社はコンペを受けません。だから無駄な提案コストが無いのです」「建築士など弊社スタッフのノウハウで、内装以外でのコスト削減が馬鹿にならないケースもあります」
 要するに自社を指名する顧客に特化し、高付加価値サービスを適正利潤(WIN-WIN利潤)で提供するのです。本当の顧客のために商品・サービスの差別化を徹底するのがA社長の経営戦略なのです。

 私の講演会での得意ネタですが、販売戦略には3つポイントがあります。このケースにも当てはまります。ご紹介させていただきながら、コメントしていきます。
 一つは緻密な見込み顧客の選別。「改装ニーズ」「オフィス引越予定」だけではコンペに巻き込まれる恐れもあります。A社長のノウハウを活かしきれない業種・経営スタイルの会社もあるでしょう。どこまで絞り込めるかが営業効率を左右します。
 さらに私ならこう考えます。ニーズが顕在化している顧客は潜在的なコンペ案件です。常に競合リスクに曝されます。顧客も気付いていない潜在ニーズを発掘し、教育をして、成果が出しやすい案件に育てていく手法が磨き上げられれば、ベンチャー企業の事業計画としては合格点でしょう。
 もう一つは選別された見込み顧客のクロージング。タイミングが早すぎればレピュテーションを落としますし、遅すぎれば競合が現れます。A社長には実績があり心配ない部分ですが、一般論として申し上げればベンチャー企業は、最後に印鑑を押して頂く「決め」のパターンを確立しておきたいものです。
 そして最後は既存クライアント対策。一度内装工事をした会社は、普通に考えれば数年、新たな工事はないでしょう。ただ顧客はA社長のファンでもあるのです。アフターフォローの一環として、継続アプローチ策を用意しておきたいところです。これによりクライアントの感動はさらに高まります。少ない費用で会社の認知度を向上させるには、「釣った魚に餌をやる」戦略が効果的なのです。この辺りはヒアリングし忘れましたが、A社長もご存知のことでしょう。

「儲」を分解すると、「信者」とか「人諸」となります。「諸人を信者にする」のです。ベンチャー企業は宗教です。社員からもクライアントからも、そして社会からも信頼されてこそ、会社は利益が得られるのです。
 この利益の使い方も、信者は見ている事でしょう。道義に反する利益を求め、あるいは低価格で商売を広げようとしては、諸人を信者にはできません。信者はあなたを最優先に考えてくれます。信者が増えれば社会への影響力を増し、経営は安定し、時代をリードする戦略が打てるようになるのです。

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株式公開を考える経営者

「株式公開にはどの程度の売上、利益が必要ですか?」とよく質問されますが、ルール上は特に基準はありません。売上・利益が少なく成長性も乏しければ、株価も低いでしょうから証券会社は商売になりません。そのためその時々の相場状況、収益状況に応じて、ある程度の売上・利益が必要とは思います。その辺りは経験的・感覚的に総合判断されているのでしょう。
固定費の小さい証券会社や実績を求める証券会社は、売上・利益の乏しい案件でも積極的に取り組むケースがあります。こうした証券会社で、引受体制の整備が遅れていたり、担当者の経験も不足していたりすると、ここが「株式公開の抜け道」となる懸念もあります。そこで本年7月から新しい引受審査ルールが施行され、どの証券会社にも大手証券並みの審査体制・審査水準を求めることとなりました。主幹事業務からの撤退を余儀無くされる証券会社も出ると予想されます。
株式公開の決め手は、売上・利益水準よりむしろ、内部管理体制の水準です。内部管理体制を整備するには膨大な資金と時間、それに人材が必要ですので、現実として業績の悪い会社は対応が難しいと思います。来年から施行されるJ-SOX対応を考えると、社長自身も内部管理体制に知識・経験が求められます。半分冗談ではありますが私は、「株式公開に業績は関係ない、内部管理体制だけ取り組めば良い」と申し上げております。社長の誤解を修正するには、このぐらい言わないと伝わりません。得意分野である業績で責任を果たしても、苦手な内部管理体制を管理部門やコンサルタントに任せていては、これからの株式公開は難しいでしょう。
 制度としては良いのですが、気になる点もあります。内部管理体制がインチキでも、政治家なら制度が守ってくれますが、上場会社の経営者はとどめを刺されます。厳し過ぎるのです。こうした状況は、内部管理体制を絶対視する考え方を助長し、経営からイノベーションを奪う恐れを感じます。公開準備を進める社長は、創造・挑戦の現実化を諦めないで欲しいと願うばかりです。企業規模に応じた社会的責任を考えれば、世界的大企業には難しい創造・挑戦に取り組んでこそ、新興市場に上場する会社に価値があります。
 話は変わりますが、最近売れているビジネス書を読むと、創造・挑戦より体制内での結果追求が重視されているようです。変化の著しいネット・インフラ等が手法(コミュニケーション技法)の源泉にある事、社会貢献や家族愛も結果から逆算して手法化される事に特色を感じます。社会全体を問うこと無く、変化の激しい部分の先頭集団に位置することで、小規模でも賢く現実的な成功を実現しようとする考え方を感じます。こうした人たちから見れば、苦労して株式公開にこだわる経営者は時代遅れでしょう。
 株式公開制度は、損得は度外視して、時代を作る人たちの夢と共にあるべきです。制約はあるにせよ、最新のビジネス手法を社会変革につなげようとする、若い経営者の新しい動きに私は注目しています。自己の成功に囚われるとイノベーション不要の時代に見えますが、自己の成長を求めると、多くの舞台が用意されております。日本の将来を見据えた経営者が、こうした環境を打ち破り株式公開を果たして欲しいと考える毎日です。

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経営者仏教の三句の法門(2)

 前回は三句の法門(菩提心を因と為し、大悲を根本と為し、方便を究竟と為す)の第一句を経営者仏教の観点から読んでみました。三句の法門は密教経典である大日経にありますが、大乗仏教の真髄をも表しています。菩提心は仏教共通のキーワードですが、大悲、方便は大乗仏教を感じさせる言葉です。

原文  経営的な意味       経営者の資質

菩提心  健全な向上心       健全な自己イメージ

大悲  思いやり、社会貢献の心  素直さ

方便  具体的手段・方法論   要領の良さ

 第二句の「大悲を根本と為し」では、「ご縁ある方々(例えば家族、従業員、顧客、地域、国家)への思いやりの心が経営の土台」と教えます。自分本位の経営では、会社は5年と持ちません。株式公開が楽な時期は、自分本位のゲーム感覚で株式公開を目指す経営者も見られました。最近の株式公開のハードルではとても通用しない話ですし、一般論として考えても、どこかで周囲からの押し上げる力を頂かないと、会社が支え切れなくなります。新興市場銘柄で不祥事が続くのを見ても、経営者が大悲を忘れた事が一因かもしれません。単純な向上心だけでは会社は走れないのです。
 また人間一人では、成功を享受できません。成功を心から祝福してくれる人に恵まれなければ、成功の価値も半減してしまいます。成功とは「人から認められる」ことで成り立つ面があります。たとえ貧しくても志に共感の輪が広がるなら、その人生の満足感は高いはずです。多少のお金があっても、周囲が営業マンだらけの人生では、物理的な快適は追求できても、心は満たされません。安直なコミュニケーションを求め、新興宗教や自己啓発セミナーに入り込む若者を見るにつけても、経営者は物質的に報いるだけでは不十分であることが分かります。十分に受け入れられた経験を持つ人間だけが、自分の創造性を発揮し、時には周囲の反対も押し切って、自分の進むべき道を進めるのでしょう。
 一方で「思いやり」「社会貢献」に囚われても経営は柔軟性を失います。お金も時間も有限ですから、世の中全てに貢献し、感謝される事はあり得ません。「良いこと」に安直に時間やお金を投じてはいけません。大悲からスタートしても、人や組織を堕落させる事がいくらでもあります。そこで方便の出番となるのです。

 さて最後の第三句は「方便を究竟と為す」です。「最も大切なのは、具体的な方法論である」というのです。私はこの句が大好きです。これが経営の根幹とすら思うのです。
「経営は心の持ち方次第」と言われますが半分は間違いです。思考を現実化するには「具体的な方法論」が必要です。多くの心の美しい経営者が、特に創業直後の経営者は、方法論を甘く見て失敗します。経営とは「人々の美しい心を現実化するために方法論を取捨選択し組織化する業務」です。組む相手、出すお金、取り組む手法には厳しい選択眼が必要なのです。動機は如何に善であっても方法論が誤っていれば、残念ながら成功はありえない、というのが、大変厳しいですが仏の教えでもあるのです。 

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共感と正邪のコミュニケーション

 7月29日の第21回参院選は与党惨敗で終わりました。私は政治の専門家ではありませんが、「共感のコミュニケーション」を取るべき安倍首相が、「正邪のコミュニケーション」を取り続けた点が敗因の一つと分析しております。私はベンチャー企業経営者に、「共感のコミュニケーションから脱皮せよ」と訴えていますが、逆に大組織は共感のコミュニケーションが必要なのです。安倍首相のベンチャー・スピリットには敬意を表しつつ、経営手法の教材として、今回の選挙を使わせて頂きたいと思います。
 大政党(大組織)は共感のコミュニケーションによる組織運営が効率的です。「二大政党制」と言われますが、この体制下では、政策であれ利権であれ、思想・宗教であれ、政治的な影響力を望む全ての価値観は、二つの大政党に集約されます。大政党は少数価値観の連合体となるのです。誰であれ自らの価値観を実現するためには、大政党内で幅広い共感を集める事がポイントとなります。そのためにはある程度の現実主義を強いられますので、極端な考え方は排除されやすく、民主主義には適したシステムと言えるのでしょう。
 自民党、民主党といった大政党では、共感を得られやすい土俵の設定が、リーダーの役割です。党内議論も党派間議論も、戦略的に相手の土俵を回避して進みますので、権力闘争は論点の噛み合わないものとなります。「美しい国」と「地域格差」は対立点のように見えますが、安倍首相は「地方切り捨て」を主張しているわけではありません。「年金・政治とカネ」に至っては、共通点ですらあるかもしれませんが、この土俵を軽視した自民党は、有権者の共感を広げられませんでした。
 小泉旋風では、自民党候補は全員「郵政民営化」を叫びましたが、今回の選挙で「美しい国」を訴えた候補は何人いたのでしょうか。「戦後レジームからの脱却」は少しメジャーだったかもしれませんが、こうした面でも安倍首相は共感のコミュニケーションに失敗していました。国家観で民主党の分裂を誘う戦略でしょうが、自党にも浸透しませんでした。一方民主党は「年金・政治とカネ」を前面に出しつつ、「地域格差」を隠し味に自民党支持層の分断を図り成功しました。私は「美しい国」に賛同する一人ですが、この思想性の高い言葉は大政党向きとは思いません。首相の正義を貫く姿勢も、土俵が狭いと頑なな印象を与えるだけでしょう。小泉前首相は郵政民営化を改革全般に結びつけることに成功しましたので、頑なさが大きな共感につながりました。共感のコミュニケーションは老練さを要するのです。自民党としては安倍首相の若さが悔やまれるところでしょう。
 一方で中小政党は、正邪のコミュニケーションを中心に組織形成をするべきです。組織・資金・人材に制約があるので、一貫した明確な価値観を訴え、大政党の曖昧さ、現実主義に満足できない層を取り込むのです。公明党、共産党、社民党の埋没は、大政党型の共感度のコミュニケーションに軸足を置いた結果と私は思います。悪者や負け犬に落ちたくない気持ちが強いと、万人向けで物分りの良い言葉を使い、言論としては正しくても、結果的に認知度に優る大政党との差別化に失敗するのです。
 ベンチャー企業の成長期には正邪のコミュニケーションが重要ですが、社会への影響力が強まるにつれ、共感のコミュニケーションに回帰します。正邪のコミュニケーションは「弱者の戦略」としては効果的ですが、「強者の戦略」としては効率が悪く、言論以外の強制力を伴わないと、多様な価値観を取りまとめる事ができないからなのです。

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経営者仏教と三句の法門(1)

 「三句の法門(3つの大切な教え)」は、「菩提心を因と為し、大悲を根本と為し、方便を究竟と為す」という言葉で、大日経(密教の主要な経典)の第一章「入真言門住心品」にあります。「悟りを求める心が原因で、思いやりの心を土台とし、具体的な手段・方法論が究極である」というような意味でしょう。これを社会の第一線に立つ経営者の視点で読み解いてみました。

原文  経営的な意味  経営者の資質

菩提心 健全な向上心  健全な自己イメージ

大悲   思いやり、社会貢献の心  素直さ

方便   具体的手段・方法論   要領の良さ

 第一句の「菩提心を因と為し」は、健全な向上心の大切さを説きます。経営者であれば「自己の向上」「会社の発展」を願うのも菩提心でしょう。大乗仏教は大きな船で、皆で彼岸を目指します。それを心の問題に留めず、社会への働きかけにまで及ぼすのが私のイメージする経営者仏教です。経営者は現実を救済する僧侶なのです。曼荼羅を眺めると、実際に「心の世界はビジネスにつながる」と教えているようなのです。

 向上心の強い経営者は多いと思います。向上心の強さゆえに周囲とぶつかり、自分の不甲斐無さに嘆きます。これも修行なのです。人間は余裕があると良からぬ考えを起こし、悪事を働きやすくなります。自分を追い詰め出し切ると、能力がさらに開発され「創造と挑戦」の回路が働き出します。困難な仕事にチャレンジするからこそ、神仏の加護を頼むのです。現実逃避や暇つぶしに神仏を使っては、経営者として勿体無いと思います。

 私は「創造と挑戦」こそが、経営者を輝かせると考えております。船井幸雄氏の説によれば、人はやる気と努力、素直さと環境がそろえば、誰でも人材に育つそうです。他人の指示では1の仕事しかできなくても、納得して進んで仕事に取り組めば、1の指示に対して1.6倍の結果が出るそうです。
さらに最初から自分で考え計画を立てて取り組めば、「1.6の2乗(約2.5)」倍の仕事ができるそうです。経営者は結果が出やすい、成長しやすい環境にいますが、私はさらに「創造と挑戦」を意識する事で、1.6倍(合計すると4倍)の成果が得られると確信しております。そしてこの状態を目指す事こそ経営者仏教の修行なのです。

 一方人には「分」があります。これも重要です。分を越えた向上心は不健全で、自己不信を招くのみならず社会の害悪になりかねません。やりたい気持ちが空回りして周囲への思いやりに欠ける決断を産みます。向上心の健全さは自分でしか判断できません。自分でも分からないときは、「動機善なりや、私心なかりしか」という稲盛氏の判断基準が参考になります。
 力を出し惜しむ若隠居も、分を越えた夢想家も、「創造と挑戦」とは無縁です。ご縁を頂き経営者となり、社会から人と資金を預けられたからには、自分を知り、かといって自分に甘えず、与えられた能力を惜しみなく出し切る覚悟こそ、経営者仏教の菩提心と言えるのでしょう。

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