ワークシェア すれ違い
ワークシェア すれ違い
経営側意欲 労組は慎重
今春闘では、経営者側が一人当たりの労働時間を縮めて仕事を分け合う「ワークシェアリング」を提案するケースが増えてきた。組合側は早急な導入に慎重な姿勢をみせており、先行きは不透明だ。
「ワークシェアは人員削減と同じ効果が得られ、すぐに事業も再開できる」
日産自動車のカルロス・ゴーン社長は2月の記者会見で、ワークシェアの検討に言及。3月から生産部門だけでなく、事務職など間接部門を含めたワークシェアを実施する方向で労使交渉を進める。
日産に加え、東芝やJFEスチールなど日本を代表する大手メーカーで、ワークシェアを検討する動きが相次いでいる。ワークシェアという言葉は使っていないが、富士通の半導体子会社、富士通マイクロエレクトロニクスは1月から三重、福島、岩手の3工場の勤務体系を「2交代」から「3交代」に改めた。一人当たりの労働時間は3分の2に縮むため、給料も減るが、人員削減を避けることができる。日本電産は、2月から本社とグループ会社を対象に最大5%の賃金カット。同時に、人員の再配置を行う。
ただ、経営者側が意欲を見せるワークシェアも、「雇用維持は経営者の当然の責務」と考える労働組合には慎重な見方が根強くある。賃金の削減は全従業員に及ぶためだ。
三洋電機は03年、掃除機や扇風機の国内工場でワークシェアを導入したが、約10カ月で打ち切った。同社労組の堀口成一委員長は「収益の回復が望めないのなら、ワークシェアは問題先送りするだけだ。事業構造そのものを問い直す必要があった」と話す。
非正規社員の処遇配慮する必要も
ワークシェアで先行する欧州では、従業員の労働時間を短縮することで、失業者の新規採用枠をつくる「雇用創出型」を導入する企業が多い。
日本では、ITバブル崩壊後の02年に政府と日経連(現日本経団連)、連合の3者がワークシェア導入に向けて基本合意したが、業績悪化時の生産調整に合わせて労働時間を減らす「緊急避難型」が主流で、以前からあった時短や一時帰休と違いはない。
労働者の3人に1人にまで増えた非正規社員の削減が進むなか、正社員の雇用だけが優先されるワークシェアについて、労働政策研究・研修機構の浜口桂一郎統括研究員は「非正社員を『仲間はずれ』にし、自分たちだけで雇用を維持しようする正社員に対し、社会の反発の目が向かいかねない」と指摘する。
非正社員が構成者の4割を占める労働組合「全国ユニオン」は09年春闘で「緊急ワークシェアリング」を提唱。正社員向けの賃上げ原資の1部を非正社員の雇用確保に充てることを経営側に求めるなど、新しい考え方のワークシェアを模索する動きもある。
労働問題に詳しい慶応大の樋口美雄教授は、「不況をしのぐ手段ににとどまらず、日本社会の持続可能性を念頭に置いたあり方を議論すべきだ」と話す。(21.3.6 朝日新聞 ―労働問題―)