Q:業務外で生じた個人的なトラブルについて、訴訟の提起を考えている30代男性。これを知った上司に、「顧客や取引先の手前、会社のイメージが悪くなる」と注意され、実際に提訴すれば何らかの懲戒処分もあり得るとにおわされた。私的な行為についても、会社は禁じたり懲戒処分を下したりできるのだろうか?
A:企業秩序関連なら処分も
懲戒解雇される事例が多いのは、業務命令に違反した場合だ。一方、社員が就業時間外に企業の外でする私的な行為には、労働契約に基づく会社の命令権や懲戒権は原則として及ばない。企業外で罪を犯したとしても、それが直接に懲戒事由となるわけではない。
判例では私的な行為に対する会社の懲戒処分が認められる場合を限定している。それは社員が企業外で行った非行・犯罪の性質、社員の会社での地位、会社の規模・業種や社会における位置づけなどを総合的に考えた結果、「会社の社会的評価に相当重大な悪影響がある」「企業の円滑な運営に支障をきたすおそれがあるなど企業秩序に関係を有する」といった場合だ。
例えば、飲酒運転で検挙された社員の懲戒解雇が常に有効になるとは限らない。だが大手運送会社の運転手が業務終了後に飲酒運転で検挙された例では、業務の特性も踏まえて懲戒解雇を有効とした(2007年東京地裁)。かつて国鉄職員が職場外で警察官に暴行を加えたケースでは、国鉄の公共性が高く「廉潔性の保持を社会から要請ないし期待されている」ことを重視。一般私企業の従業員より厳しく規制される合理的理由があるとして、やはり懲戒処分を容認した(1974年最高裁)。
社員が訴訟を起こすような場合はどうか。外資系証券幹部が日本公認会計士協会を相手に、個人として訴訟を提起した例がある。会社はその名声にとって有害になるとして取り下げを命じたが、社員が応じなかったため懲戒解雇した。
このケースでは、社員が自分の営業成績に影響を及ぼす監査指針を出した協会を訴えたことから、全く私的な行為とはいえず「事業活動の一環」であり、会社の指揮命令権限を認めた。よって懲戒解雇は有効とされた(05年東京高裁)。
離婚や相続に関する訴訟など純粋に私的なものを除き、「業務と私的行為の中間領域でも、会社の組織や立場を度外視して個人の問題と言い切るのは難しい」(労働法に詳しい金久保茂弁護士)といえるだろう。
懲戒処分の対象となる主な行為類型
企業が懲戒制度をおくには就業規則に定めなければならない(労働基準法89条)
①労務提供義務関連(業務命令違反、無断欠勤など)
②企業の施設や資材の保持関連(物品の無断使用など)
③災害の防止や衛生の保持関連(安全規則の無視など)
④事務所内、就業時間中の秩序保持関連(無断集会、暴力行為など)
⑤企業の信用や名誉の保持関連(秘密漏洩、会社批判など)
<ポイント>
①企業外・就業時間外の私的行為は原則として懲戒対象外
②社員や会社の立場から企業秩序にかかわる場合は処分も
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