ビル所有者にとって他人事ではない判決 ~歌舞伎町ビル火災~
今月2日、東京地裁はひとつの判決を言い渡しました。
平成13年9月に新宿区歌舞伎町の雑居ビルから出火し44人が死亡した火災で、ビル所有会社の役員やテナントの元経営者らが業務上過失致死傷罪に問われた裁判です。
執行猶予付きとは言え有罪判決が言い渡されたことについて、ビル所有者や雑居ビル内のテナント経営者にとっては、他人事とは思えないのではないでしょうか。
今回、ポイントとなる点はいくつかあると思いますが、ひとつは火災の原因が放火であるとみられていることです。
放火の実行犯は特定されていませんが、刑事上であれ、民事上であれ、最も責任を負うべきは放火犯であり、ビル所有者はむしろ自らの財産(ビル)を焼失させられた被害者という見方もできなくありません。
しかし裁判所が結果的に重視したのは、もうひとつのポイントと言っていい、ビル管理上の責任であったと言えるでしょう。
このビルでは出火時を含め普段から非常階段の踊り場などの共用部分に各テナントの物が置かれていたようです。
それが避難しようとする人たちの障害となり、結果的に多くの死傷者が出てしまったことをビル所有者らの過失と認めたわけです。
ビル所有者はビルの管理者として、各テナントが共用部分に物を置かないように常時注意する義務があるにも関わらず、それを怠ったという訳です。
この件を保険の観点で考察すると、施設所有者(管理者)賠償責任保険という保険が思い浮かびます。
この保険は施設(ビルやマンションなど)を所有するもの、あるいは管理するもの、使用するものが、施設所有(管理・使用)についての注意義務を、過失によって怠った場合の損害賠償責任を補償するものです。
上の例で言えば「共用部分に物を置かないように注意する」義務を怠ったのはビル所有者の過失であり、亡くなった方の遺族は過失あるもの(ビル所有者)に対して、人が亡くなったことについての「損害」を、逸失利益や慰謝料といった形で賠償請求する可能性が高いでしょう。
民事訴訟になるわけですが、かなりの範囲で遺族側の訴えが認められると予想されます。
こうした場合の賠償金を補償するのが、先ほどの施設所有者(管理者)賠償責任保険です。
実際に保険を使おうとした場合、保険会社によっては、放火犯の責任に言及する可能性はあるものの(自動車保険などでよく耳にする、過失割合の主張です。放火犯にも過失あり、というわけです)保険の対象になると思われます。
むろん、歌舞伎町ビル火災のような痛ましい事故とならないよう、防火管理上の注意を怠らないことが第一に優先されることですが、例えばこの「物が共用部分に置かれていた」ということが、たまたまその時だけ、ということであったらどうでしょうか。
どんなに注意を払っていても起こりえることではないでしょうか。
保険に携わる者だからではなく、いや保険に携わる者だから言わねばならないのかもしれません。
「ビル所有者にとって施設所有者賠償責任保険への加入は必須である」と。
(法人コンサルティング部 小鳥秀明)