年金払の生命保険に対する「二重課税」
年金払の生命保険に所得税と相続税をかけるのは二重課税だという最高裁判決が話題になっています。新聞報道だけでは分かりにくいので、ここで簡単に説明します。堅い話ですが、興味がおありでしたら読んでください。
現行の取扱いでは、受け取った年金保険のうち元金(最初に払い込んだ保険料)を超える部分が所得税の課税対象になっています。これは死亡年金でも生存年金でも同じです。
ところが相続時には、この年金保険について「保険契約に関する権利」が相続税の課税対象に含まれます。すると相続後に受け取る年金には相続税の課税対象とされた「保険契約に関する権利」が含まれており(というより大部分であり)、この部分には所得税を課税できないと最高裁の判決は言っています。つまり現行のやり方では、
所得の額 = 受け取った年金 - 最初に払い込んだ保険料
ですが、最高裁の判決では次のようになります。
所得の額 = 受け取った年金 - 相続税の対象となった「保険契約に関する権利」
この論法によれば、ストックオプションや定期預金でも同じ問題が起きます。例えば定期預金の預金者の相続時には、定期預金に相続税が課税されます。その際には元金だけでなく、経過利息(預け入れ時から相続時までの利息)も合わせて課税対象になります。
すると相続後に満期になった時には「満期利息から、相続税の対象となった経過利息を控除して、その残りに所得税をかけるべきだ」ということになります。理屈は同じですからね。
このようなものを「違法な二重課税」と言えるのでしょうか。所得税法では、相続で取得するものは非課税所得と定めており、一見すると最高裁判決がもっともらしく見えます。しかし税法は一つの体系です。全体の体系の中で考える必要があります。
売買差額や利子配当などの所得に課税するのが所得税なのですから、その支払い時(払込時)と収入時(受け取り時)の中間に相続があったからと言って取り扱いを変えるのは、税法の趣旨に反すると私は思うのです。