厚生労働省が「名ばかり管理職」について、またもやおかしな通達
厚生労働省は、平成20年9月9日付で「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について(基発第0909001号)」と題する通達を、厚生労働省労働基準局長から都道府県労働局長あてに出しました。
内容は、チェーン展開している小売業、飲食店等において店長等が労働基準法第41条第2項に規定されている「監督若しくは管理の地位にある者」に該当するか否かの基準を裁判例などを参考にして整理したものです。
注意しなければならないのは、石嵜信憲弁護士がビジネス法務5月号で述べているように、「通達はあくまで統一的な労働行政を行う観点から定められた行政内部のルールであって、国民の権利義務関係を制限する法規版となりうるものではなく、通達が「監督若しくは管理の地位にある者」の絶対的な解釈ではない」ということです。
そもそも管理監督者などという法概念はないのです。労働基準法の一体どこに管理監督者などという文言が存在しているのでしょうか?
労働基準法第41条第2項は「監督若しくは管理の地位にある者」と規定しています。
労働基準法立法段階の法案審議のための質疑応答集でも、「監督の地位にある者とは労働者に対する関係に於いて使用者の為に労働状況を観察し労働条件の履行を確保する地位にある者、管理の地位にある者とは労働者の採用、解雇、昇給、転勤等人事管理の地位にある者を云ふ」としています。
つまり、「監督の地位にある者」と「管理の地位にある者」とは分けて考えられているのです。
それを、厚生労働省は通達で勝手に管理監督者などと一緒くたにしてしまっているのです。
賃金面の優遇基準も立法段階では存在していませんでした。労働基準法案審議で政府委員だった寺本廣作氏は著作で明確に賃金面を基準とすることを否定しています。厚生労働省も、昭和22年の通達では賃金面を「監督若しくは管理の地位にある者」の判断基準として採用していなかったのに、昭和63年通達において、突如として賃金面の基準が登場してきます。
今回の通達では、くどいほど「賃金等の待遇」についての判断要素を取り上げています。
また、今回の通達では「勤務態様」についての判断要素のひとつとして、労働時間に対する裁量に関して以下の通り通達しています。
「営業時間は店舗に常駐しなければならない、あるいはアルバイト・パート等の人員が不足する場合にそれらの者の業務に自ら従事しなければならないなどにより長時間労働を余儀なくされている場合のように、実際には労働時間に関する裁量がほとんどないと認められる場合には、管理監督者性を否定する補強要素となる。」
上記の働き方は、まさに管理監督者そのものではないでしょうか。そもそも管理監督者とは、労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請せざるを得ない、重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間の規制になじまないような立場にある者をいう、とは今回の通達の後半にも掲げられていることです。
つまり、管理監督者とは他の従業員の誰よりも早く出社し、誰よりも遅くまで働かざるを得ない立場の人のことをいうのです。遅く出社して早く帰る自由などあるわけないでしょう。
管理監督者の判断基準が、「名ばかり管理職」「名ばかり店長」などというマスコミが好む言葉から始まって、厚生労働省が、法の趣旨を逸脱した勝手な基準を作りだすのはおかしなことです。
「名ばかり店長」「名ばかり管理職」の大きな問題は、管理監督者の判断基準ではなく、健康を害するほどの長時間労働にあります。
厚生労働省は、長時間労働の是正にこそ力を入れるべきではないでしょうか。
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多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について ―具体的な判断要素を整理した通達を発出― 厚生労働省発表(平成20年9月9日)