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終身雇用を望むなら理不尽な配転命令にも覚悟を

会社による転勤命令に応じない社員の懲戒解雇が、有効か無効かを争った東亜ペイント事件という有名な事件があります。

大阪の自宅から、神戸の営業所に勤務していた営業マンが広島営業所への転勤を命じられました。彼は、高齢の母親(71歳)と保母の妻、2歳の子どもと同居していました。

 

保育所の運営委員をしている妻は仕事を辞めることが困難であり、母親は生まれてから一度も大阪を離れたことがない、といった家庭事情を理由に彼は転勤命令を拒否しました。

会社は後日、彼に再度転勤を説得、彼は拒否、その場で名古屋営業所への転勤を内示しましたが、これも拒否。そこで会社は彼の同意を得ることなく名古屋営業所への転勤命令を発令。

彼はこれも拒否したため、会社は、転勤命令拒否を就業規則規定の懲戒事由に該当するとして、彼を懲戒解雇しました。

彼は、配転命令及び懲戒解雇の無効を主張して訴訟を起こしました。1審、2審ともに彼の言い分がほぼ全面的に認められ、会社は権利濫用したとして負けました。

ところが、最高裁では懲戒解雇が有効とされ、会社が勝ちました。

最高裁の判決は以下のような内容でした。

労働協約・就業規則には包括的な転勤命令条項があり、実際に転勤が頻繁に行われていること、本人とは勤務地限定の合意がないことから、個別に同意を得ることなく、会社には転勤命令権がある。

業務上の必要性※1がない場合、あっても不当な動機・目的による場合※2、通常甘受すべき程度を著しく越える不利益※3を負わせる場合には、転勤命令は権利の濫用になる。

本件配転命令には業務上の必要性が優に存したものということができ、彼の家族状況に照らすと、名古屋営業所への転勤が彼に与える家庭生活上の不利益は、転勤に伴い通常甘受すべき程度のものというべきである。

本件配転命令は権利の濫用に当たらないと解するのが相当である。

※1転勤先への異動が、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与すれば業務上の必要性が認められ、余人をもっては容易に替え難いことまでは求められてません。

※2不当な動機・目的による場合とは、組合員を嫌悪して転勤させる、報復や嫌がらせで転勤させる等です。

※3単身赴任等労働者の家庭生活上の不利益程度は、通常甘受すべき程度とされています。

「就業規則や労働協約に定めがある以上、家庭生活を犠牲にしても配転命令に従いなさい」などとは今の常識では考えられない判決かもしれません。

今や、法律の条文でワーク・ライフ・バランスまでもが定められる時代です(労働契約法3条3項)。ワーク・ライフ・バランスを大切にして働こうが、すべての時間を仕事に割こうが本人の自由であり、法律が口を出すのは余計なお節介だと思いますが。

そうはいっても、法律にまでお節介な条文が定められるのには、過労死に至るまで働かされるサラリーマンの悲劇が後を絶たない現実があります。これも、かたくななまでに正社員を守りすぎる判例が積み重なってきた結果です。

正社員が簡単に解雇できない以上、派遣やパート、アルバイトなどの非正規社員を雇用の調整弁として雇わざるを得ない現実があり、責任ある仕事は解雇規制に守られた人数の限られた正社員がすべて行わなければならず、勢い長時間労働にならざるをえません。

いきおい、話がずれてしまいましたが、「日本をダメにした10の裁判」という本では、単身赴任者の悲劇として深みの感じられない上記最高裁判決を批判しています。

判決が下されたのが昭和61年、時あたかもバブル時代に突入、年功序列、終身雇用、企業別労働組合といったいわゆる三種の神器が素晴らしい日本的慣行と言われていた時代です。

専業主婦の妻が家庭を守り、夫は終身雇用と年功序列を保障され、企業別労働組合の元で安定した労使関係が築かれた会社で、安心して定年まで働き続けることができました。

本の中では、単身赴任者の悲劇を容認する最高裁判決を批判することが中心になってしまい、あまり触れられてはいませんでしたが、会社は社員に対して終身雇用と年功序列を約束していたのです。

そのためには、職種や勤務地を限定することなく、柔軟に職種転換を図り、転勤をさせながら雇用を維持する必要があったのです。

社員は多少理不尽な配転命令にも従う義務があるのと引き替えに、会社は終身雇用と年功序列といった素晴らしい制度を保障してくれていたのです。

最近の若者には、終身雇用や年功序列の復活を望む声が増えていると聞きます。それならワーク・ライフ・バランスを無視し、家庭生活を多少犠牲にしても、会社の強大な人事権に従わなければなりません。

終身雇用と年功序列制度のもとで、ワーク・ライフ・バランスも重視した働き方ができる、そんな牧歌的な会社があれば最高ですけど・・・

参考条文
労働契約法
(労働契約の原則)
第三条  労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。
2  労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
3  労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
4  労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。
5  労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない

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