改正労働基準法と就業規則、その2「法定割増賃金率の引上げ」
長時間労働を抑制し、労働者の健康確保や、仕事と生活の調和を図ることを目的とする「労働基準法の一部を改正する法律」(平成20年法律第89号)が、平成20年12月12日に公布され、平成22年4月1日から施行されます。
第2回目は「月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率の引上げ」です。
現行制度においては、時間外労働に対して、使用者は25%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。深夜(22:00~5:00)の時間帯に時間外労働を行わせた場合は、深夜割増賃金率25%+時間外割増賃金率25%=50%となります。
改正労働基準法では、特に長い時間外労働を強力に抑制することを目的として、1か月について60時間を超えて時間外労働をさせた場合には、その超えた時間の労働について、法定割増賃金率を現行の2割5分以上の率から5割以上の率に引き上げることとされました。
なお、労働基準法第138条に規定する中小事業主の事業については、当分の間、法定割増賃金率の引上げは適用しないこととされていますので、時間外労働60時間超の割増賃金を50%以上に引き上げる必要はありません。
改正のポイントは以下の通りとなります。
1)総論
1か月60時間を超える時間外労働に対しては、使用者は50%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならなくなります。
1か月の起算日は、賃金計算期間の初日、毎月1日、36協定の期間の初日などにすることが考えられますが、通常は賃計算期間の初日となります。
○ 1か月60時間を超える時間外労働の割増賃金率及び1か月の起算日については、労働基準法第89条第1項第2号に定める「賃金の決定、計算及び支払の方法」に関するものなので、就業規則に規定する必要があります。
○ 1か月の起算日からの時間外労働時間数を累計していって60時間を超えた時点から、50%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。
2)深夜割増賃金との関係
深夜(22:00~5:00)の時間帯に月60時間を超える時間外労働を行わせた場合は、深夜割増賃金率25%+時間外割増賃金率50%=75%となります。
3)法定休日との関係
1か月60時間の時間外労働の算定には、法定休日(※)(例えば日曜日)に行った労働は含まれませんが、それ以外の休日(上記の例では土曜日)に行った時間外労働は含まれます。
なお、労働条件を明示する観点や割増賃金の計算を簡便にする観点から、法定休日とそれ以外の休日を明確に分けておくことが望ましいとされています。
※ 法定休日
使用者は1週間に1日または4週間に4回の休日を与えなければなりません。これを「法定休日」といいます。法定休日に労働させた場合は35%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。
就業規則(賃金規程)規定例
限度時間を超える時間外労働に係る割増賃金率を25%、1か月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率を50%とする場合
(時間外労働の割増賃金)
第○○条 時間外労働の割増賃金は、次の算式により計算して支給する。なお、この場合の1か月は毎月1日を起算日とする(賃金計算期間と同じとする)。
(1)1か月60時間以下の時間外労働
{(基本給+○○手当+△△手当)÷1か月平均所定労働時間数}×1.25×時間外労働時間数
(2)1か月60時間を超える時間外労働
{(基本給+○○手当+△△手当)÷1か月平均所定労働時間数}×1.50×時間外労働時間数
参考条文
労働基準法の一部を改正する法律(平成二十年法律第八十九号)
第三十七条第一項に次のただし書を加える。
ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
第百三十八条
中小事業主(その資本金の額又は出資の総額が三億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については五千万円、卸売業を主たる事業とする事業主については一億円)以下である事業主及びその常時使用する労働者の数が三百人(小売業を主たる事業とする事業主については五十人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については百人)以下である事業主をいう。)の事業については、当分の間、第三十七条第一項ただし書の規定は、適用しない。
改正労働基準法条文に関しては、以下をご参照ください。
労働基準法の一部を改正する法律(平成20年法律第89号)
概要(PDF:55KB)
条文(PDF:80KB)
新旧対照表(PDF:130KB)
今回は、以下のパンフレットを参考にしました。
改正労働基準法のあらまし
改正労働基準法全般に関しては、以下をご参照ください。
厚生労働省:労働基準法が改正されます(平成22年4月1日施行)