改正労働基準法と就業規則、その4「中小企業の猶予措置」
長時間労働を抑制し、労働者の健康確保や、仕事と生活の調和を図ることを目的とする「労働基準法の一部を改正する法律」(平成20年法律第89号)が、平成20年12月12日に公布され、平成22年4月1日から施行されます。
第4回目は「中小企業の猶予措置」です。
長時間外労働を抑制することを目的として、労働基準法第37条第1項ただし書において、1か月について60時間を超える時間外労働について、法定割増賃金率を5割以上の率に引き上げることとされています。
しかしながら、経営体力が必ずしも強くない中小企業においては、時間外労働抑制のための業務処理体制の見直し、新規雇入れ、省力化投資等の速やかな対応が困難であり、やむを得ず時間外労働を行わせた場合の経済的負担も大きいものです。
このため、労働基準法第138条において、同条に規定する中小事業主の事業については、当分の間、法定割増賃金率の引上げの適用を猶予することとされています。これに伴い、労働基準法第37条第3項の規定による代替休暇も適用されないこととなります。
中小企業に該当する場合は、あわてて、就業規則に60時間超の割増賃金を5割以上に定めたり、代替休暇を定めない方がいいでしょう。
なお、改正法附則第3条第1項において、政府は、改正法の施行後3年を経過した場合において、中小事業主に対する猶予措置について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずることとされています。
○ 中小企業の範囲
・中小企業に該当するか否かは、「資本金の額または出資の総額」と「常時使用する労働者の数」で判断されます。
・事業場単位ではなく、企業単位で判断されます。
1)猶予される中小企業
業種 | 資本金の額または出資の総額 | または | 常時使用する労働者数 |
小売業 | 5,000万円以下 | または | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | または | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | または | 100人以下 |
その他 | 3億円以下 | または | 300人以下 |
※業種分類は日本標準産業分類(第12回改定)に従っています。日本標準産業分類の詳しい中身については、以下をご参照下さい。
http://www.stat.go.jp/index/seido/sangyo/19-3.htm
個人事業主や医療法人など資本金や出資金の概念がない場合は、労働者数のみで判断することとなります。
例えば、医療法人は日本標準産業分類によるとサービス業に分類されるため、常時使用する労働者数が101人以上であれば、中小企業の猶予措置が適用されず、時間外労働が1か月60時間を超えれば、5割以上の割増賃金を支払うか、代替休暇を与えなければなりません。
また、グループ企業の場合はグループ単位ではなく、法人単位で判断しますので注意が必要です。
したがって、101人以上規模の医療法人等は、法定時間外労働60時間超で5割以上の割増賃金率等を就業規則に規定しなければなりません。
参考条文
労働基準法の一部を改正する法律(平成二十年法律第八十九号)
第三十七条第二項の次に次の一項を加える。
使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第一項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(第三十九条の規定による有給休暇を除く。)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。
第百三十八条
中小事業主(その資本金の額又は出資の総額が三億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については五千万円、卸売業を主たる事業とする事業主については一億円)以下である事業主及びその常時使用する労働者の数が三百人(小売業を主たる事業とする事業主については五十人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については百人)以下である事業主をいう。)の事業については、当分の間、第三十七条第一項ただし書の規定は、適用しない。
改正労働基準法条文に関しては、以下をご参照ください。
労働基準法の一部を改正する法律(平成20年法律第89号)
概要(PDF:55KB)
条文(PDF:80KB)
新旧対照表(PDF:130KB)
今回は、以下のパンフレットを参考にしました。
改正労働基準法のあらまし
改正労働基準法全般に関しては、以下をご参照ください。
厚生労働省:労働基準法が改正されます(平成22年4月1日施行)