改正労働基準法と就業規則、その5「年次有給休暇の時間単位付与」
長時間労働を抑制し、労働者の健康確保や、仕事と生活の調和を図ることを目的とする「労働基準法の一部を改正する法律」(平成20年法律第89号)が、平成20年12月12日に公布され、平成22年4月1日から施行されます。
第5回目は「年次有給休暇の時間単位付与」です。
1.趣旨
年次有給休暇については、取得率が5割を下回る水準で推移しており、その取得の促進が課題となっている一方、現行の日単位による取得のほかに、時間単位による取得の希望もみられるところです。
このため、まとまった日数の休暇を取得するという年次有給休暇制度本来の趣旨を踏まえつつ、仕事と生活の調和を図る観点から、年次有給休暇を有効に活用できるようにすることを目的として、労使協定により、年次有給休暇について5日の範囲内で時間を単位として与えることができることとされました。
2.現行制度の概要
○ 労働基準法第39条において、使用者は、6か月継続勤務して全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、10労働日の年次有給休暇を与えることとされています。
年次有給休暇の付与日数は、勤続年数に応じて加算され、労働基準法に定められた最低基準は以下の表の通りとなります。
年次有給休暇の付与日数
(週の所定労働時間・所定労働日数が少ない労働者(いわゆるパートタイマー)については、所定労働日数に応じた日数の年休が付与されます。)
勤続年数 | 0.5年 | 1.5年 | 2.5年 | 3.5年 | 4.5年 | 5.5年 | 6.5年以上 |
付与日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
○ 年次有給休暇に対して支払われる賃金は、(1)平均賃金(2)所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金(3)標準報酬日額(労使協定が必要)のいずれかとなります。
○ 年次有給休暇は、原則として労働者が請求する時季に与えなければなりません。ただし、請求された時季に休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合には、他の時季に与えることがます。これを「時季変更権」と言います。
○ 年次有給休暇の日数のうち5日を超える部分については、労使協定に定めたところに従って、計画的に与えることができます。これを「年次有給休暇の計画的付与」と言います。
※ 半日単位の年休取得について
年次有給休暇は日単位で取得することが原則ですが、労働者が希望し、使用者が同意した場合であれば、労使協定が締結されていない場合でも、日単位取得の阻害とならない範囲で半日単位で与えることが可能です。
今回の改正後も、半日単位の年休については取扱いに変更はありません。
3.改正のポイント
1)総論(時間単位年休)
労使協定を締結すれば、年に5日を限度として、時間単位で年次有給休暇を与えることができるようになりますが、分単位など時間未満の単位は認められません。
2)時間単位年休に支払われる賃金額
時間単位年休1時間分の賃金額は、(1)平均賃金(2)所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金(3)標準報酬日額(労使協定が必要)をその日の所定労働時間数で割った額になります。
(1)~(3)のいずれにするかは、日単位による取得の場合と同様にし、就業規則に定めなければなりません。
3)時季変更権
時間単位年休も年次有給休暇ですので、事業の正常な運営を妨げる場合は使用者による時季変更権が認められます。
ただし、日単位での請求を時間単位に変えることや、時間単位での請求を日単位に変えることはできません。
4)計画年休との関係
時間単位年休は、労働者が時間単位による取得を請求した場合において、労働者が請求した時季に時間単位により年次有給休暇を与えることができるものですので、労働基準法第39条第6項(改正前は第5項)の規定による計画的付与として時間単位年休を与えることはできません。
4.労使協定に規定する内容
(1)時間単位年休の対象労働者の範囲
(2)時間単位年休の日数
(3)時間単位年休1日の時間数
(4)1時間以外の時間を単位とする場合はその時間数
の4つがあります。
○ 時間単位年休の労使協定例
(対象者)
第1条 すべての従業員を対象とする。
(日数の上限)
第2条 年次有給休暇を時間単位で取得することができる日数は5日以内とする。
(1日分年次有給休暇に相当する時間単位年休)
第3条 年次有給休暇を時間単位で取得する場合は、1日の年次有給休暇に相当する時間数を8時間とする。
(取得単位)
第4条 年次有給休暇を時間単位で取得する場合は、1時間単位で取得するものとする。
○ 就業規則規定例
(年次有給休暇の時間単位での付与)
第○○条 労使協定に基づき、前条の年次有給休暇の日数のうち、1年について5日の範囲内で、次により時間単位の年次有給休暇(以下「時間単位年休」という。)を付与する。
(1) 時間単位年休付与の対象者は、すべての従業員とする。
(2) 時間単位年休を取得する場合の、1日の年次有給休暇に相当する時間数は、以下のとおりとする。
1 所定労働時間が5時間を超え6時間以下の者・・・6時間
2 所定労働時間が6時間を超え7時間以下の者・・・7時間
3 所定労働時間が7時間を超え8時間以下の者・・・8時間
(3) 時間単位年休は1時間単位で付与する。
(4) 本条の時間単位年休に支払われる賃金額は、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金の1時間当たりの額に、取得した時間単位年休の時間数を乗じた額とする。
(5) 上記以外の事項については、前条の年次有給休暇と同様とする。
それにしても、時間外労働に対する代替休暇、時間単位年次有給休暇ともに、労務管理上、非常に煩雑となりますりで、導入する企業はそれほど多くないと思います。
参考条文
労働基準法の一部を改正する法律(平成二十年法律第八十九号)
第三十七条第二項の次に次の一項を加える。
(前略)
使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めた場合において、第一号に掲げる労働者の範囲に属する労働者が有給休暇を時間を単位として請求したときは、前三項の規定による有給休暇の日数のうち第二号に掲げる日数については、これらの規定にかかわらず、当該協定で定めるところにより時間を単位として有給休暇を与えることができる。
一 時間を単位として有給休暇を与えることができることとされる労働者の範囲
二 時間を単位として与えることができることとされる有給休暇の日数(五日以内に限る。)
三 その他厚生労働省令で定める事項
改正労働基準法条文に関しては、以下をご参照ください。
労働基準法の一部を改正する法律(平成20年法律第89号)
概要(PDF:55KB)
条文(PDF:80KB)
新旧対照表(PDF:130KB)
今回は、以下のパンフレットを参考にしました。
改正労働基準法のあらまし
改正労働基準法全般に関しては、以下をご参照ください。
厚生労働省:労働基準法が改正されます(平成22年4月1日施行)