採用した労働者がすぐに辞めてしまった場合、損害賠償を請求できるか?
A.可能性がないとはいえないと思われるが、裁判で認められたケースは希である。
東京地判平成4.9.30 ケインズインターナショナル事件:特定業務のため採用した労働者が短期間で退職したために、契約を打ち切られた事例で、得べかりし利益の7%、労働者の退職後に労働者が損害賠償として支払う旨合意した金額の3分の1だけ認められたケースがある程度である。
Q.懲戒したことを社内に掲示しても構わないか?
A.就業規則の適正な手続きによって懲戒処分する場合、社内の掲示板に掲示しても差し支えない。社内における掲示は、個人情報の第三者提供には該当しない。なお、懲戒処分も雇用情報であるので、「個人情報の保護に関する規定」で利用目的を明確にしておくとよい。
Q:40代の男性管理職。部下の女性社員がにおいの強い香水をつけている。職場の仲間も気にしている。上司として、香水について女性に注意することがセクシュアル・ハラスメント(=セクハラ、性的嫌がらせ)にならないが心配だ。
A:外資系企業の法務部勤務経験がある森原憲司弁護士はセクハラについて「相手がセクハラと感じ」、かつ客観的にも「違法か、違法でないとしても人の価値観や社会通念に反する行為」を指すと説明する。最近は「違法でないからセーフとか、女性が嫌がるからアウトなどと判断基準を勘違いしがちだ」(同弁護士)と指摘する。
この基準によれば、相談例の場合は原則、セクハラには該当しないという。職場の環境や秩序を乱す恐れがあるため上司の責務で正す必要がある。客観性を保つため、本当ににおいは強いか職場の仲間に確かめるべきだ。
では、外勤の営業担当者の場合はどうか。労働問題に詳しい中村克己弁護士は「勤務する会社の看板を背負って仕事をするので、においに対する許容度は内勤に比べて低いだろう」と話す。会社の印象が悪化し、顧客が離反しかねないからだ。とはいえ、従業員の身なりについて注意することは「企業秩序の維持を目的とした『労働者の自由の制限』にかかわる」(中村弁護士)。だが、業務に支障をきたす場合を除き、業務命令として禁止することはできないという。
身なりに関する就業規則違反をめぐる処分について判断した裁判例がある。トラック運転手が茶髪などを理由に解雇された事例で、1997年に福岡地裁小倉支部は「企業が秩序の維持を名目に労働者の自由を制限する場合、制限行為の内容は必要性・合理性・手段方法としての相当性を欠くことがないよう特段の配慮が要請される」などと判断し、解雇は無効とした。
セクハラにならなくても、注意の仕方に気をつける必要がある。森原弁護士によると「気に入らない」と言うのはもってのほかだ。「香水をつけなくても魅力的」と言うのはセクハラになりかねない。女性の管理職と一緒に注意するのも一法だ。
*セクハラの主な定義
社会学的には、歓迎されない性的言動または行為により屈辱や精神的苦痛を感じさせてりすること、性的な言動または行為によって相手方の望まない行為を要求し、これを拒んだ者に対し、職業、教育の場合で人事上の不利益を与えるなどの嫌がらせに及ぶこととも定義される。(97年、東京地裁判決)
①犯罪となるもの
(例)レイプ、痴漢、性的うわさを流すなどの名誉棄損、ストーカーなど
②民事上違法と判断されるもの
(例)食事やデートに執拗に誘う、わいせつ文書を送りつけるなど
③法的に違法とまではいえないが、人々の価値観や社会通念に反する行為
(例)女性だけに私用を頼む、カラオケのデュエット、お酌をさせるなど
*ポイント
①職場の環境や規律を正すのは、基本的には上司の責務
②注意の仕方や言い方によっては問題になる場合も
Q ハローワークで求人を出す際、「健康で明朗快活な方」という表現は可能でしょうか?
A 主観的判断になりがちな採用基準ですので避けてください。同様に「明るい人」「元気な人」などの性格的特性を示す表現は、見る方の主観的イメージによって左右される非常に曖昧で不確実なものです。
たとえば、「明るい人」ではなく、教育・訓練で培うことのできる「明るい接客ができる方」などの表現なら、客観的評価が可能になります。応募してくる方の働きたい意思を尊重し、仕事の適性で選考するよう心がけてください。
求人を出す際には、主観的判断になりがちな採用基準は避け、職務の遂行に必要な「資格・経験・能力」など客観的、総合的な評価が出来るものにしましょう。
Q.始末書を出させることができるか。始末書を出さないことをもって、もう一度処分できるか?
A.「始末書を提出させて~する」というのがあるが、始末書の不提出をもって再度処分することはできない。
なぜなら「労働者は使用者から身分的、人格的支配を受けるものではないので、謝罪を強制する始末書は個人意思尊重の理念から強要することはできない(高松高判昭46.2.25丸住製紙事件)」とされている。
始末書ではなく「顛末書」や「報告書」ならば業務命令としてできる。
土日休んだ秘書減給 労基法違反の疑い
民主党衆議院議員 1日2万円
民主党の衆議院議員が、土日祝日に地元秘書が休むと1日あたり2万円を減給していたことがわかった。労働基準法が認める減給額の範囲を超えており、同法違反の疑いがある。議員は25日、朝日新聞の取材に対し「業務を全くしていない秘書がいたのでやむを得ず取った措置だ。07年7~12月にやっていたが、現在はしていない」と答えた。
元秘書の一人によると、07年9月に議員から当時の秘書たちに減給の導入が伝えられた。参院選があった2カ月前の7月にさかのぼって適用され、12月に4万円を減給されるなど07年中に12万5千円を減らされた。
この元秘書の月給は20万円。労働条件通知書によると、週休は2日で、月の勤務日はおおむね20日間。国会議員の地元活動は週末が中心のため、議員からは「休みは原則、平日」と伝えられていた。
労基法は、減給制裁は、1回あたり平均賃金1日分の半額までと定めている。総額にも制限があり、月給制の場合、1カ月の減給総額は月給の10分の1を超えてはならないとされている。
元秘書の場合、2万円の減給は1回当たりの上限(約5千円)を超え、2回以上なら総額の上限(2万円)も超える。労働基準監督署によると、「労基法違反の可能性が高い」という。
一方で、議員は減給制度導入と同時に、休み返上で月に20日を超えて勤務した場合は1日につき1万円を支給していたが、労基法は、時間外勤務の場合25%以上、休日出勤の場合は35%以上の割増賃金を義務づけており、支給額はそれに満たなかった。
(朝日新聞 -労働問題-)
2009年11月号より抜粋
9月1日厚生労働省は、今年の地域別最低賃金についての地方最低賃金審議会における答申状況をまとめ公表しました。全国平均で時給10円が引き上げられ、平均713円。3年続けて過去最高額となっています。
改訂後の最低賃金は、10月以降、順次適用されます。
最低賃金とは、労働者に支払わなければならない最低の賃金額をいいます。地域別最低賃金(都道府県ごとに適用)と特定最低賃金(特定の産業・職業に適用)があり、両方が適用される労働者には高い方の額以上の賃金を支払わなければなりません。地域別最低賃金に違反すると罰則もあります。
地域によって生活保護の額の方が最低賃金を上回っているという批判から、ここ数年差額を縮めるため大幅な引き上げが続いています。生活保護と60円ほどの開きがある東京都では全国で最も大きく25円の引き上げとなっています。当初、厚生労働省の諮問機関である中央最低賃金審議会は、昨今の景気から企業の負担増につながることを配慮し、引き上げは12都道府県に限るものとした目安を出していました。結果、各都道府県の多くがこの目安より引き上げています。
民主党のマニフェストでは「全国平均1,000円」を目指すとされていて、今後の中小企業への影響が懸念されます。
※最低賃金に含まれないもの
①臨時に支払われる賃金
②1月を超える期間ごとに支払われる賃金
③精皆勤手当、通勤手当、家族手当
④時間外などの割増賃金
※地域別最低賃金の額
・東京都 791円 (引上額 25円)
・神奈川 789円 (引上額 23円)