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中野人事法務事務所中野 泰(なかの やすし)

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不正受給していた手当を今後支払う給与と相殺してもよいか?

本来利用していない交通機関を利用していることにして、
通勤手当を不正に受給していた社員がいた場合、
今まで不正に受給していた金額を給与から控除してもよいのでしょうか?

方法論と注意ポイントは次の通りです。

1 会社側で一方的に相殺しようとする場合

★ 従業員代表と、不正受給した金額を控除できる旨の労使協定を締結すること。
★ 一支払期の賃金あるいは退職金の4分の1までしか相殺できないことに注意すること。

賃金については「全額払いの原則」があります。
賃金の計算期間に対する労働に対する対価については、
全額を労働者に支払わなければいけません。

一部しか支払わないと、不当な引き留め工作となる場合があり、
従業員を拘束してしまったり、生活を不安定・困窮させてしまう恐れがあるためです。

ただし、例外として、次の二つのどちらかであれば、給与から控除してもよいこととなっています。

1 法令で控除してもよいものとされている控除項目(例:所得税、住民税、社会保険料)
2 労使協定を締結した控除項目(例:労働組合費、社内旅行積立金 等)

今回も給与から控除するわけですが、「1」には該当しませんので、
「2」の要件を満たすべく、労使協定を締結することになるわけです。

ただ、支払額については、民法第510条、民事執行法第152条により、
一支払期の賃金あるいは退職金の4分の1までしか控除できないことになっておりますので、
ご注意ください。

2 従業員側で賃金の相殺に同意した場合

★ 従業員の完全な自由意思に基づくのであれば、控除可能。
★ 一支払期の賃金あるいは退職金の4分の1までしか相殺できないという制限を受けません。

従業員の同意を得られれば、従業員と同意した額を賃金から控除することができます。

ただ、当然のことながら、会社側としては会社側の一方的な相殺となると、
労使協定書を締結する手間がかかりますし、しかも相殺できる額にも制限がありますから、
無理やりにでも従業員に同意させて、一気に清算させることを検討することになろうかと存じます。

こうなると、悪いことをしたのは従業員とはいえ、
その従業員の自由意志と生活を守らなければならない、という側面との
バランスを取る必要があります。

そこで、相殺することが従業員の自由意思に基づくものと
客観的に認められる合理的理由の存在が要件となっているのです。

当然のことながら、口約束だけではトラブルになった時に弱くなりますので、
ご本人との約束を書面に残すことは最低限しておいた方がよいでしょう。

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