定額で支給している通勤手当を出勤日数に応じて減額できるか?
通勤手当について、1ヶ月分の定期代相当額を
毎月支払っているケースって多いですよね。
でも、よく考えてみると、休日が多い月や、夏季休暇等、
満額を支払うのはもったいないと思われる
ケースもあるのではないでしょうか?
こうした際に、出勤日数に応じて
通勤手当の額を減額することは可能でしょうか?
結論を申し上げると、原則として、
労使が合意すれば問題ありません。
ただし、今までは満額を支払っていたにもかかわらず、
今後は減額する場合があるとなると、
従業員にとっては労働条件の不利益変更となります。
労使が合意すれば不利益変更であっても問題ないとはいえ、
合意できないこともあるでしょうし、
減額するための手続きにも十分に注意した方がよいでしょう。
そこで、減額するための手続きについて記しておきます。
通勤手当は、就業規則等にその支給が定められていれば、
賃金の一種となります。
何の根拠もなく、いきなり減額して支払うと、
労働基準法第24条「全額払いの原則」に違反してしまいます。
そこで、就業規則を変更して、
減額できる根拠を作ることになります。
ただ、使用者側の一方的な意思で
就業規則の不利益変更ができるかどうか。
この点について、最高裁は
第四銀行事件(平成9年2月28日、第二小法廷判決)で
「就業規則の作成・変更に合理性があれば構わない」としています。
具体的には、次のように判示しています。
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「新たな就業規則の作成または変更によって
労働者の危篤の権利を奪い、
労働者に不利益な労働条件を一方的に課すことは、
原則として許されないが、
労働条件の集合的処理、
特にその統一的かつ画一的な決定を
建前とする就業規則の性質からいって、
当該就業規則条項が合理的なものである限り、
個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、
その適用を拒むことはできない。
(中略)特に賃金、退職金等
労働者にとって重要な権利、
労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす
就業規則の作成または変更については、
当該条項が、そのような不利益を労働者に
法的に受認させることを許容することができるだけの
高度の必要性に基づいた
合理的な内容のものである場合において、
その効力を生ずるものというべきである。」
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そして、合理性の有無の判断基準として、
次の点を総合考慮して判断すべきだと判示しています。
1 就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度
2 使用者側の変更の必要性の内容・程度
3 変更後の就業規則の内容自体の相当性
4 代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況
5 労働組合等と交渉の経過
6 他の労働組合または他の従業員の対応
7 同種事項に関する我が国社会における一般的状況等
以上により、従業員の同意が得られない場合であっても、
就業規則の変更に合理性があれば、
通勤手当の減額も可能です。
ただ、合理性の有無の判定も
上記のように文字で書けば簡単に見えますが、
トラブルになれば、一つ一つ証明していくことになりますので、
非常に煩瑣です。
強行突破作戦は最後の手段にして、
従業員の同意を得ることに意を尽くした方が得策です。
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