就業規則よりも優遇した手当の支払いをやめることはできるか?
ある会社の出張旅費規程には、
片道100km以上の移動を伴う業務が出張であり、
出張の際には日当を支払うと規定しています。
ところが、実態は50kmを超えた場合は日当を支払うことを
10年くらい前から続けていました。
こうした背景がある中、経費削減の一環として、
100km未満の場合の日当は今後は支払わないものとし、
出張旅費規程通りの運用に戻すことはできるのでしょうか。
こうした就業規則には書かれていないものの、
暗黙のルールとして運用されているものを
「労使慣行」と言います。
労使慣行は実質的に就業規則としての効力を
持っているとされています。
今回の事例は、今まで支払ってきたものを
支払わないという変更ですから、
不利益変更に当たります。
この不利益変更が有効とされるためには、
この労使慣行を廃止するための「合理性」が求められます。
この合理性の判断基準として、
タケダシステム事件最高裁判決
(昭和58年11月25日 第二小法廷)では、
変更の内容と、その必要性の双方について
検討することが求められ、
次のような諸事情を総合的に勘案することと
判示しています。
★ 変更により従業員の被る不利益の程度
★ 不利益変更との関連の元に行われた賃金の改善状況
★ 労働組合との交渉の経過
★ 他の従業員の対応
★ 関連会社の取扱い 等
今回の事例についても、
経費削減という会社側の必要性の程度と、
100km未満の移動の場合は日当を支払わないとする
不利益変更の内容の双方について
検討を加えることになります。
こうした不利益変更を行うためには、
一般的には、極力既得権益を損なわないよう
配慮する措置を取ることが多いです。
例えば、次のようなことをするとよいでしょう。
★ 今後入社する従業員については
出張旅費規程通りの日当支払ルールを適用する。
★ 既存の社員については一定期間経過措置期間を設け、
激変緩和措置を行う。
★ 他のルールの改善を行い、不利益変更と抱き合わせる。
★ 労働組合や従業員と十分に話し合い、理解を求める。
こうした取り組みの結果、最終的に同意を得られない
従業員が出てしまうかもしれません。
こうした場合は、会社の責任において
不利益変更を実施することになりますが、
従業員が納得しない場合は、
その妥当性について
法廷で争うことになる可能性が高くなります。
こうなると、時間、費用、労力がかかりますし、
従業員との信頼関係も決裂しやすくなります。
不利益変更の実施の前に、
労働組合や従業員とは十分に話し合い、
極力このような事態を迎えることのないよう、
意を尽くすことをお勧め致します。
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