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中野人事法務事務所中野 泰(なかの やすし)
ブログ記事一覧
職場に火災発生!善意で職場に駆けつけ消火活動をした時間は労働時間?
自社の従業員を休日にアルバイトさせることってできますか?
不正受給していた手当を今後支払う給与と相殺してもよいか?
休業期間中の休日についての平均賃金を算出する際の取り扱い方
給料(給与、賃金)を銀行に振り込みすることは通貨払いの原則に違反しているのか?
有期雇用契約者と解雇制限
5日間の有期雇用契約を締結して、働き始めたAさんが、
初日、荷物を運搬中に大けがをしてしまいました。
本人は現在入院中。
そんな時パラパラと労働基準法の解説書を読んでいると、
こんなお約束があることに気がつきました。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
使用者は、次の場合、それぞれ定める期間、解雇してはいけません。(労働基準法第19条)
★ 労働者が業務上ケガや病気にかかり療養のために休業する期間 & その後30日間
★ 産前産後の女性が労働基準法第65条の規定によって休業する期間 & その後30日間
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
この有期雇用契約者、有期雇用契約期間が終わっても、
休業期間中雇用し続けることはもちろんのこと、
復帰も認め、さらに30日間は雇用し続けなくてはいけないのでしょうか?
実は、この条文は期間の定めのない従業員の方を想定した条文です。
したがって、有期雇用契約者の場合は、この条文は適用されませんので、
期間満了時に、当然に労働契約は消滅します。
なお、例え5日間のアルバイトであっても、労災は適用されます。
こちらは手続きをするのを忘れないよう、ご注意ください。
解雇予告手当の注意ポイントは?
解雇予告30日前って、結局いつのこと?
労働基準法による解雇制限
解雇が制限される場合とは?
民法において規定されている雇用契約(労働契約)は
当事者である会社側と従業員側のの交渉力や社会的地位が対等であることを前提としています。
ところが、実態としては、会社側の方が従業員側よりも強い立場にあるのが通常です。
そこで、現代社会においては労働契約法、労働基準法等の労働法や
判例法理によって、従業員側を厚く守るように全面的に修正されています。
まず、大原則です。
★期間の定めのない雇用契約
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、
社会通念上相当であると認められない場合は、
その権利を濫用したものとして、無効となります。
★期間の定めのある雇用契約(有期雇用契約)
やむを得ない事由がある場合でなければ、
雇用契約期間中に解雇することができません。
さらに、解雇が具体的に禁止されている主な場合として、次のものがあります。
1 業務上災害のため療養中の期間とその後の30日間の解雇(労働基準法19条1項)
2 産前産後の休業期間とその後の30日間の解雇(労働基準法19条1項)
3 労働基準監督署に申告したことを理由とする解雇(労働基準法104条2項)
4 労働組合の組合員であること等を理由とする解雇(労働組合法7条)
5 労働者の性別を理由とする解雇(男女雇用機会均等法6条)
6 女性労働者が結婚・妊娠・出産・産前産後の休業をしたことを理由とする解雇
(男女雇用機会均等法9条)
7 労働者が育児・介護休業を申し出たこと、
または育児・介護休業をしたことを理由とする解雇(育児・介護休業法10条、16条)
8 公益通報をしたことを理由とする解雇(公益通報者保護法3条)
ただし、上記1及び2については、次の場合に解雇制限を外すことができます。
1 業務上の傷病により使用者から補償を受ける労働者が、
療養を開始して3年を経過してもその傷病が治らない場合、
平均賃金の1200日分の打切補償(労働基準法81条)を支払えば解雇制限が外れます。
★ケガ等の症状が回復して職場に復帰し、
通院により治療している期間は解雇制限の対象とはなりません。
療養のために休業している(会社を休んでいる)期間が対象になります。
★解雇制限の対象になるのは、仕事が原因によるケガや病気に限られます。
プライベートでのケガや病気は該当しません。
★通勤途上によるケガ等も解雇制限の対象とはなりません。
2 天災事変その他やむをえない事由が生じて、事業の継続が不可能になった場合、
労働基準監督署長の認定を得ることができれば、解雇制限が外れます。
会社の金を横領した社員を懲戒解雇することはできるか?
会社の金を横領。
そんなことってあるの?と知り合いで現金商売をしているレストラン経営者に聞いてみたところ、
「いっくらでもありますよ~。」
社長から信頼されて金庫の鍵を預けてもらっている幹部社員が、
その信頼を逆手に取り、こっそりネコババしていたとか、
具体的ケースを挙げ出したらキリがないほどだそうです。
皆で汗水たらして得たお金をコッソリ横領するなんて、とんでもないことです。
気持ち的には「許せん!懲戒解雇で即日解雇だー!!」となりますが、
法的には大丈夫でしょうか?
厳密な結論を言えば
「個々のケースにより異なりますので、何とも言えません」となります。
解雇の判断って微妙なんです。ただ、これでは答えになりませんね。
そこで、最終的には何とも言えなくとも、
考え方の筋道をお伝えしようと思います。
1 即日解雇はできるのか?
解雇処分が有効であるということが前提ですが
即日解雇、できます。
ただ、即日解雇をする際は、30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません。
これを「解雇予告手当」と言います。
えっ?会社の金を横領したようなヤツになぜ、そんなお金を支払わなくてはいけないのか?
そりゃそうですよね。ごもっともです。
労働基準法第20条にも「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合」は
解雇予告手当を支払わなくてよい、とされています。
そうなると、「労働者の責に帰すべき事由」かどうかを誰かが判断することになります。
これを判断するのが労働基準監督署です。会社ではありません。
したがって、労働基準監督署に「解雇予告除外認定申請書」という申請書を届け出て、
判断を仰ぐことになります。
労働基準監督署で判断する際には、次の通達を参考に決めていると思われます。
(昭和23年11月11日 基発第1637号、昭和31年3月1日基発第111号)
盗取、横領、傷害等があった場合の
「労働者の責に帰すべき事由」として認定すべき事例
1 原則として極めて軽微なものを除き、
事業場内における盗取、横領、傷害等、刑法犯に該当する行為のあった場合
2 一般的にみて「極めて軽微」な事案であっても、
使用者があらかじめ不祥事件の防止について
諸種の手段を講じていたことが客観的に認められ、
しかもなお労働者が継続的にまたは断続的に
盗取、横領、傷害等の刑法犯、またはこれに類する行為を行った場合
3 事業場外で行われた盗取、横領、傷害等の刑法犯に該当する行為であっても、
それが著しく当該事業場の名誉もしくは信用を失墜するもの、
取引関係に悪影響を与えるもの
または労使間の信頼関係を喪失せしめるものと認められる場合
ということで、極めて軽微でもなく、事業場内で行われたのであれば、
通常は、労基署も認めてくれるのではないかと考えます。
2 懲戒解雇処分は有効か?
懲戒解雇とは、普通解雇と異なり、けん責、減給、降職、出勤停止等とともに
企業秩序の違反に対し、使用者によって課せられる一種の制裁罰です。
(昭和38年6月21日 十和田観光電鉄事件 最高裁第二小法廷判決より)
懲戒解雇の具体的な方法や手続きについては、
特段法律で定められていませんが、
懲戒解雇を含む懲戒処分を社内の仕組みとして導入する場合は、
その種類や程度に関する事項を就業規則に定めなくてはいけません。
(労働基準法第89条第9号)
また、労働契約法で、懲戒処分を行う場合や解雇を行う場合は、
「客観的に合理的な理由を欠き、、社会通念上相当である」と
認められることが要件となっています。
――――――――――――――――――――――――――――――
(懲戒)
第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、
当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の
性質及び態様その他の事情に照らして、
客観的に合理的な理由を欠き、
社会通念上相当であると認められない場合は、
その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、
社会通念上相当であると認められない場合は、
その権利を濫用したものとして、無効とする。
――――――――――――――――――――――――――――――
横領した額、頻度、社内の防止体制、事業場内で起きた事件か否か等によって
結論も変わりえますが、
懲戒解雇、有効になる確率は高いと思います。
ただ、懲戒解雇を有効にしやすくするためにも、
次の点は押さえておいてください。
1 懲戒処分の種別や程度、事由等について就業規則に明記すること
2 日頃から不祥事件の防止策を講じておくこと
3 「こうした防止策を講じています」という証拠を残しておくこと
抽象的な解雇理由しか告げずにした解雇は有効か?
ある従業員を「勤務成績不良のため解雇する」と伝え、解雇しました。
後日、その従業員が「具体的な理由も告げずに解雇したのは無効である」
と主張してきました。
会社としては、言いたいことはたくさんありますが、
具体的内容を本人に伝えるのも本人に気の毒ですし、
極力円満に解決したいと考え、具体的なところは言及しなかったのです。
この場合、Aに対して具体的な理由を告げないと、
解雇は無効になってしまうのでしょうか?
普通解雇、懲戒解雇を問わず、解雇をする場合は、
客観的に合理的な理由を欠き、
社会通念上相当であると認められない場合は、
その権利を濫用したものとして、無効とされます。
(労働契約法第16条)
したがって、解雇をするには、合理的な理由が必要とされます。
したがって、解雇の効力が訴訟で争われたような場合、
会社は、解雇の具体的理由を裁判所で主張・立証することになり、
会社の言い分が認められなければ、
解雇権の濫用として解雇が無効になります。
しかしながら、これは解雇にあたって実体的な理由があるかどうか、という問題であり、
その理由を本人に伝える必要があるかどうかは別問題です。
会社が解雇理由を伝えないことで、
本人を意図的に騙そうとしたというような
特殊事情がある場合等は話は変わりますが、
一般的には、解雇の理由となった具体的事実を
本人に伝えることまでは法的には要求されていません。
判例も次のように判示しています。
「解雇理由は、これを被解雇者に通知しなければならないという根拠はない」
(昭和28年12月4日、最高裁第二小法廷、熊本電鉄事件)
なお、平成15年労働基準法改正により、
従業員が解雇の予告がされた日から退職日までの間において、
解雇理由を記載した文書の交付を請求した場合は
会社は遅滞なくこの文書を交付しなければならなくなりました。
この解雇理由についても、
特段詳しく具体的に記載する義務はありません。