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中野人事法務事務所中野 泰(なかの やすし)

ブログ記事一覧

出張の際の移動時間は労働時間か?

普段は東京で働いているのに、明日は大阪出張。
大阪に行くだけで数時間を要してしまいます。
こうした出張に伴う移動時間は労働時間としてカウントすべきなのでしょうか?

これは、移動時間をどのように過ごさせたかという実態により、答えが変わります。

具体的な労働義務がなく、移動時間中をどのように過ごすのかが自由であれば、
労働時間ではないと判断しやすくなります。

一方、例えば自社の商品を無事運ぶために、移動中についても監視を命じた出張や、
自社の商品等を運搬すること自体を目的とした出張である場合、
移動中に自由に持ち場を離れることはできなくなり、
万が一商品等が盗難にあったり、損傷したりした場合は、就業規則等の定めにより、
制裁を科されることも考えられます。

こうなってくると、会社の指揮監督下にあるとみなされ、
移動時間中も労働時間であると判断されやすくなるでしょう。

なお、出張中の休日について、以下のような通達が出ております。

出張中の休日は、その日に旅行する等の場合であっても、
旅行中における物品の監視等別段の指示がある場合の外は
休日労働として取り扱わなくても差し支えない。
(昭和23年3月17日 基発第461号、昭和33年2月13日基発第90号)

こうしたことから、会社側の立場としては、
移動時間を労働時間としないようにするために、
次の点にお気をつけください。

★ 移動時間中に○○の業務をしなさい、などという業務指示を出さないこと
★ 移動時間中、物品の監視をしなければいけない等、
   移動時間中も必然的に業務となってしまうような事態を避けること

逆にこうしたことが満たされない場合は、労働時間としてカウントすることが原則となります。

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職場に火災発生!善意で職場に駆けつけ消火活動をした時間は労働時間?

職場に火災が発生した場合、既に帰宅している従業員が、
任意に職場に出勤し、消火作業に従事した時間は労働時間でしょうか?

昭和23.10.23基収3141号、昭和63.3.14基発150号によると、
一般に労働時間とするとの見解です。

出勤命令が出て消火作業に従事すれば、当然労働時間ですが、
こうした場合、従業員の任意であり、上司からの指示・命令もなく消火作業をしたとしても、
労働時間としてカウントしてよいということです。

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自社の従業員を休日にアルバイトさせることってできますか?

例えば、土日が休みの会社があるとします。
Aという部署が忙しく、人手が足りないので、
Bという部署のメンバーに声をかけて、
希望者には土日に「アルバイト」として働いてもらうことはできるのでしょうか?

1 雇用契約上の問題

雇う側の会社も、雇われる側の従業員も同一であるにもかかわらず、
平日は正社員として雇用契約を結び、
休日はアルバイトとして別個の雇用契約を結ぶというのは
理論的にはありえますが、
実態は一体のものとして取り扱うべきものです。

そうしなければ、どこの会社も休日は「アルバイト」扱いにすることで、
休日出勤が休日出勤でなくなってしまいます。
これでは労働基準法が骨抜きとなってしまい、法の趣旨に反してしまいますので、
認められないわけです。

さらに、労働時間は、事業場を異にする場合においても、
労働時間に関する規定の適用については通算するという定めがあります。
(労基法38条第1項)

したがって、仮に1日の所定労働時間が8時間の会社であれば、
平日5日分で週の法定労働時間40時間となりますので、
土日のどちらかに出勤した時点で1.25倍で計算することになりますし、
その日が法定休日であれば、1.35倍で計算することになります。

2 残業単価

昭和23年11月22日基発第1681号には次のような説明があります。

所定労働時間中に甲作業に従事し、
時間外に乙作業に従事したような場合には、
その時間外労働についての「通常の労働時間又は労働日の賃金」とは、
乙作業について定められている賃金である。

ここから、休日労働での作業に対して
普段の仕事とは別の賃金が割り振られている場合は、
休日労働の作業に見合った賃金を元にした残業単価で計算すればよいということになります。

まとめ

1 雇用契約上は、二つの雇用契約を走らせるのは無理がある。
2 労働時間は平日の業務と通算して計算しなければならず、
  その上で、割増賃金が発生する場合は、割増賃金を支払わなければならない。
3 ただし、残業単価はその作業に見合った賃金が設定されている場合は、
  その賃金を元にして計算して構わない。

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不正受給していた手当を今後支払う給与と相殺してもよいか?

本来利用していない交通機関を利用していることにして、
通勤手当を不正に受給していた社員がいた場合、
今まで不正に受給していた金額を給与から控除してもよいのでしょうか?

方法論と注意ポイントは次の通りです。

1 会社側で一方的に相殺しようとする場合

★ 従業員代表と、不正受給した金額を控除できる旨の労使協定を締結すること。
★ 一支払期の賃金あるいは退職金の4分の1までしか相殺できないことに注意すること。

賃金については「全額払いの原則」があります。
賃金の計算期間に対する労働に対する対価については、
全額を労働者に支払わなければいけません。

一部しか支払わないと、不当な引き留め工作となる場合があり、
従業員を拘束してしまったり、生活を不安定・困窮させてしまう恐れがあるためです。

ただし、例外として、次の二つのどちらかであれば、給与から控除してもよいこととなっています。

1 法令で控除してもよいものとされている控除項目(例:所得税、住民税、社会保険料)
2 労使協定を締結した控除項目(例:労働組合費、社内旅行積立金 等)

今回も給与から控除するわけですが、「1」には該当しませんので、
「2」の要件を満たすべく、労使協定を締結することになるわけです。

ただ、支払額については、民法第510条、民事執行法第152条により、
一支払期の賃金あるいは退職金の4分の1までしか控除できないことになっておりますので、
ご注意ください。

2 従業員側で賃金の相殺に同意した場合

★ 従業員の完全な自由意思に基づくのであれば、控除可能。
★ 一支払期の賃金あるいは退職金の4分の1までしか相殺できないという制限を受けません。

従業員の同意を得られれば、従業員と同意した額を賃金から控除することができます。

ただ、当然のことながら、会社側としては会社側の一方的な相殺となると、
労使協定書を締結する手間がかかりますし、しかも相殺できる額にも制限がありますから、
無理やりにでも従業員に同意させて、一気に清算させることを検討することになろうかと存じます。

こうなると、悪いことをしたのは従業員とはいえ、
その従業員の自由意志と生活を守らなければならない、という側面との
バランスを取る必要があります。

そこで、相殺することが従業員の自由意思に基づくものと
客観的に認められる合理的理由の存在が要件となっているのです。

当然のことながら、口約束だけではトラブルになった時に弱くなりますので、
ご本人との約束を書面に残すことは最低限しておいた方がよいでしょう。

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休業期間中の休日についての平均賃金を算出する際の取り扱い方

平均賃金の算定期間中に会社側の責任とされる事由により
休業した期間がある場合、
その日数及びその期間中の賃金は、
平均賃金算定の基礎となる期間及び賃金の総額から
控除することとされています。
(労働基準法第12条第3項第3号)

この場合、休業期間中に、
労働協約、就業規則、または労働契約により
休日と定められている日が含まれている場合、
この休日の日数は、休業した期間の日数に含むものとして計算します。

なお、休業の開始日及び終了日は、
この休業に係る労使協定や
就業規則の規定に基づく会社の指示等により、
個別の状況に応じて客観的に判断することになっています。
(平成22年7月15日基発第0715号第6号) 

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給料(給与、賃金)を銀行に振り込みすることは通貨払いの原則に違反しているのか?

給料や残業代などの賃金は通貨で支払うことが原則です(労働基準法第24条)。

通貨で支払うということは、現金で支払うということです。
昔の映画を見ると、給料日に経理の人が一人一人の差引支給額を給料袋に入れ、
上司や社長さんが「今月もお疲れ様!」と、
現金の入った給料袋を渡すシーンがあります。

労働基準法の世界では、こういったことが今でも原則なんです。

一方、21世紀の現代、こうした賃金は、
大半の企業では、金融機関への振込によって支払われています。

銀行振込というのは、法的に言うと、
「従業員が金融機関に対して預金を引き下ろす債権を取得した」
ということです。
現金を支給されたことにはならないのです。

しかし、現代では電気やガス料金、電話代、学習塾の授業料等、
様々なものが口座から引き落としされる世の中になっており、
銀行預金は生活と切り離せないものになっています。

また、現金でもらうよりも銀行振込の方がお金の管理がしやすいですよね。

さらに、経理の人も、給料を渡された人も
多額の現金を持ち歩く必要がなくなるので、安全性が高いのです。

したがって、振込が通貨払いの原則に違反していると考えるのは、
現実的ではなくなっているのです。

そこで、従業員の同意がある場合には、
従業員が指定する金融機関の口座への振込の方法によって
賃金を支払うことも許されるとされています(労働基準法第7条の2第1項)。
また、通常の預金口座以外にも、証券口座(MRF)に
振り込むことも許されるとされています(同条第2項)。

なお、この場合の「同意」は
従業員の意思に基づくものである限り、
その形式は問いません。

また、「指定」とは、
従業員が賃金の振込対象として金融機関に対する
従業員本人名義の預貯金口座を指定するという意味であり、
この指定が行われていれば、特段の事情がない限り、
従業員の同意を得たと考えてよいとされています。
(昭和63年1月1日 基発1号)

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有期雇用契約者と解雇制限

5日間の有期雇用契約を締結して、働き始めたAさんが、
初日、荷物を運搬中に大けがをしてしまいました。
本人は現在入院中。

そんな時パラパラと労働基準法の解説書を読んでいると、
こんなお約束があることに気がつきました。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
使用者は、次の場合、それぞれ定める期間、解雇してはいけません。(労働基準法第19条)

★ 労働者が業務上ケガや病気にかかり療養のために休業する期間 & その後30日間
★ 産前産後の女性が労働基準法第65条の規定によって休業する期間 & その後30日間
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

この有期雇用契約者、有期雇用契約期間が終わっても、
休業期間中雇用し続けることはもちろんのこと、
復帰も認め、さらに30日間は雇用し続けなくてはいけないのでしょうか?

実は、この条文は期間の定めのない従業員の方を想定した条文です。
したがって、有期雇用契約者の場合は、この条文は適用されませんので、
期間満了時に、当然に労働契約は消滅します。

なお、例え5日間のアルバイトであっても、労災は適用されます。
こちらは手続きをするのを忘れないよう、ご注意ください。

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解雇予告手当の注意ポイントは?

解雇予告手当を支払う際の実務上の注意ポイントを記しておきます。

1 支払う日はいつ?

解雇予告をした日です。
解雇予告した日以降の給与支払日ではありませんので、ご注意ください。

2 控除するものはありませんか?

<社会保険料>

控除しません。

雇用保険料、健康保険料、厚生年金保険料、全て控除しないようご注意ください。

<所得税>

退職(解雇)に伴って支払われるものであることから、
税金を計算する際は給与所得ではなく、退職所得として計算します。

退職所得も課税対象ですが、控除額が大きいことが特徴です。
このため、退職金と一緒に支払われたり、
解雇予告手当がよほど高額でも無い限りは、
解雇予告手当に所得税が発生することは滅多にありません。

ちなみに勤続年数に応じて、下記の金額までは所得税がかかりません。

★ 勤続年数が20年以下の場合
  40万円×勤続年数
  ※80万円未満の場合には80万円

★ 勤続年数が20年を超える場合
  70万円×(勤続年数-20年)+800万円

なお、解雇予告手当を受け取る場合、
対象従業員は『退職所得の受給に関する申告書』に必要事項を記載し、
会社で保管しておくことになっております。

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解雇予告30日前って、結局いつのこと?

労働基準法では、解雇をする場合、
原則として下記の2種類の選択枝からどちらか一方を選ぶことになります。

1 少なくとも30日前に予告をする
2 30日分の解雇予告手当を支払う
  ※正確には1と2の合わせ技もOK。
   例:20日前に予告をし、10日分の解雇予告手当を支払う 等

さて、「1」を選択するとして、
12月1日に解雇予告をする場合、結局いつをもって解雇とすれば
30日前に予告したことになるのでしょうか?

12月30日? はたまた12月31日?

答えは「12月31日」。

民放という法律で「初日不算入の原則」が謳われており、
これは労働基準法にも適用されます。

したがって、12月1日に解雇の予告をするわけですから、
この日は初日不算入の原則により、カウントされません。

12月2日から30日後の12月31日。この日をもって解雇すると、
12月1日にご本人に伝えるということになります。

1ヶ月が31日の月ですと、分かりやすいのですが、
1ヶ月が30日の月ですとどのようになるのでしょうか?

例えば、9月30日をもって解雇したいという場合は、
9月1日に予告をしてしまったら29日前ということになってしまいます。
この場合は、8月31日までに9月末をもって解雇しますと予告しなければいけません。

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労働基準法による解雇制限

労働基準法第19条では次のようなケースの場合は、
解雇の制限をかけています。

1 業務上での従業員のケガや病気の療養のために休業する期間と、その後30日間
2 産前産後の女性が休業する期間と、その後30日間

ただし、使用者が、打切補償を支払う場合、または天災事変その他やむを得ない事由のために
事業の継続が不可能となった場合においては、この限りでないとしています。
なお、、この場合は、その事由について労働基準監督署の認定を受けなければいけません。

さて、「やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」とは
具体的にはどういうことを指しているのでしょうか。

以下、昭和63年3月14日基発150号を元にご説明します。

【やむを得ない事由】

やむを得ない事由とは、天災事変に準ずる程度に不可抗力に基づき、
かつ、突発的な事由の意味を指しています。
事業の経営者として、社会通念上取るべき必要な措置をもってしても
通常いかんともなしがたいような状況にある場合を言います。

通達では下記の事例が挙げられています。

★事業場が火災により焼失した場合。
 ただし、事業主の故意または重大な過失に基づく場合を除きます。
★震災に伴う工場、事業場の倒壊、類焼等により
 事業の継続が不可能となった場合

一方、次のような事例の場合は、やむを得ない事由には該当しません。

★事業主が経済法令違反のため強制収容され、
 または購入した諸機械、資材等を没収された場合
★税金の滞納処分を受け事業廃止に至った場合
★事業経営上の見通しの齟齬に代表される、
 事業主の危険負担に属すべき事由に起因して
 資材入手難、金融難に陥った場合
 個人企業で別途に個人財産を有するか否かは
 労基署の認定には直接関係はありません。
★従来の取引事業場が休業状態となり、発注品なく、
 そのために事業が金融難に陥った場合

【事業の継続が不可能】

事業の全部または大部分の継続が不可能になった場合を言います。

次のようなケースの場合は「事業の継続が不可能である」とは言えません。

★その事業場の中心となる重要な建物、設備、機械等が焼失を免れ、
 多少の従業員を解雇すれば従来通り操業できる場合
★従来の事業は廃止するが、多少の従業員を解雇すれば
 そのまま別個の事業に転換できる場合のように
 事業がなおその主たる部分を保持して継続できる場合
★一時的に操業中止のやむなきに至ったが、
 事業の現況、資材、資金の見通し等から
 全従業員を解雇する必要に迫られず、
 近く再開復旧の見込みが明らかであるような場合

なお、労働基準法による解雇制限以外にも他の法律により
解雇の制限がかけられています。
全体像を知りたい方はこちらも合わせてご覧ください。

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解雇が制限される場合とは?

民法において規定されている雇用契約(労働契約)は
当事者である会社側と従業員側のの交渉力や社会的地位が対等であることを前提としています。

ところが、実態としては、会社側の方が従業員側よりも強い立場にあるのが通常です。

そこで、現代社会においては労働契約法、労働基準法等の労働法や
判例法理によって、従業員側を厚く守るように全面的に修正されています。

まず、大原則です。

★期間の定めのない雇用契約

 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、
 社会通念上相当であると認められない場合は、
 その権利を濫用したものとして、無効となります。

★期間の定めのある雇用契約(有期雇用契約)

 やむを得ない事由がある場合でなければ、
 雇用契約期間中に解雇することができません。

さらに、解雇が具体的に禁止されている主な場合として、次のものがあります。

1 業務上災害のため療養中の期間とその後の30日間の解雇(労働基準法19条1項)
2 産前産後の休業期間とその後の30日間の解雇(労働基準法19条1項)
3 労働基準監督署に申告したことを理由とする解雇(労働基準法104条2項)
4 労働組合の組合員であること等を理由とする解雇(労働組合法7条)
5 労働者の性別を理由とする解雇(男女雇用機会均等法6条)
6 女性労働者が結婚・妊娠・出産・産前産後の休業をしたことを理由とする解雇
  (男女雇用機会均等法9条)
7 労働者が育児・介護休業を申し出たこと、
  または育児・介護休業をしたことを理由とする解雇(育児・介護休業法10条、16条)
8 公益通報をしたことを理由とする解雇(公益通報者保護法3条)

ただし、上記1及び2については、次の場合に解雇制限を外すことができます。

1 業務上の傷病により使用者から補償を受ける労働者が、
  療養を開始して3年を経過してもその傷病が治らない場合、
  平均賃金の1200日分の打切補償(労働基準法81条)を支払えば解雇制限が外れます。

  ★ケガ等の症状が回復して職場に復帰し、
   通院により治療している期間は解雇制限の対象とはなりません。
   療養のために休業している(会社を休んでいる)期間が対象になります。
  ★解雇制限の対象になるのは、仕事が原因によるケガや病気に限られます。
   プライベートでのケガや病気は該当しません。
  ★通勤途上によるケガ等も解雇制限の対象とはなりません。

2 天災事変その他やむをえない事由が生じて、事業の継続が不可能になった場合、
  労働基準監督署長の認定を得ることができれば、解雇制限が外れます。

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会社の金を横領した社員を懲戒解雇することはできるか?

会社の金を横領。
そんなことってあるの?と知り合いで現金商売をしているレストラン経営者に聞いてみたところ、
「いっくらでもありますよ~。」

社長から信頼されて金庫の鍵を預けてもらっている幹部社員が、
その信頼を逆手に取り、こっそりネコババしていたとか、
具体的ケースを挙げ出したらキリがないほどだそうです。

皆で汗水たらして得たお金をコッソリ横領するなんて、とんでもないことです。
気持ち的には「許せん!懲戒解雇で即日解雇だー!!」となりますが、
法的には大丈夫でしょうか?

厳密な結論を言えば
「個々のケースにより異なりますので、何とも言えません」となります。

解雇の判断って微妙なんです。ただ、これでは答えになりませんね。

そこで、最終的には何とも言えなくとも、
考え方の筋道をお伝えしようと思います。

1 即日解雇はできるのか?

解雇処分が有効であるということが前提ですが
即日解雇、できます。

ただ、即日解雇をする際は、30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません。
これを「解雇予告手当」と言います。

えっ?会社の金を横領したようなヤツになぜ、そんなお金を支払わなくてはいけないのか?

そりゃそうですよね。ごもっともです。

労働基準法第20条にも「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合」は
解雇予告手当を支払わなくてよい、とされています。

そうなると、「労働者の責に帰すべき事由」かどうかを誰かが判断することになります。
これを判断するのが労働基準監督署です。会社ではありません。

したがって、労働基準監督署に「解雇予告除外認定申請書」という申請書を届け出て、
判断を仰ぐことになります。

労働基準監督署で判断する際には、次の通達を参考に決めていると思われます。
(昭和23年11月11日 基発第1637号、昭和31年3月1日基発第111号)

盗取、横領、傷害等があった場合の
「労働者の責に帰すべき事由」として認定すべき事例

1 原則として極めて軽微なものを除き、
  事業場内における盗取、横領、傷害等、刑法犯に該当する行為のあった場合

2 一般的にみて「極めて軽微」な事案であっても、
  使用者があらかじめ不祥事件の防止について
  諸種の手段を講じていたことが客観的に認められ、
  しかもなお労働者が継続的にまたは断続的に
  盗取、横領、傷害等の刑法犯、またはこれに類する行為を行った場合

3 事業場外で行われた盗取、横領、傷害等の刑法犯に該当する行為であっても、
  それが著しく当該事業場の名誉もしくは信用を失墜するもの、
  取引関係に悪影響を与えるもの
  または労使間の信頼関係を喪失せしめるものと認められる場合

ということで、極めて軽微でもなく、事業場内で行われたのであれば、
通常は、労基署も認めてくれるのではないかと考えます。

2 懲戒解雇処分は有効か?

懲戒解雇とは、普通解雇と異なり、けん責、減給、降職、出勤停止等とともに
企業秩序の違反に対し、使用者によって課せられる一種の制裁罰です。
(昭和38年6月21日 十和田観光電鉄事件 最高裁第二小法廷判決より)

懲戒解雇の具体的な方法や手続きについては、
特段法律で定められていませんが、
懲戒解雇を含む懲戒処分を社内の仕組みとして導入する場合は、
その種類や程度に関する事項を就業規則に定めなくてはいけません。
(労働基準法第89条第9号)

また、労働契約法で、懲戒処分を行う場合や解雇を行う場合は、
「客観的に合理的な理由を欠き、、社会通念上相当である」と
認められることが要件となっています。

――――――――――――――――――――――――――――――
(懲戒)
第十五条  使用者が労働者を懲戒することができる場合において、
当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の
性質及び態様その他の事情に照らして、
客観的に合理的な理由を欠き、
社会通念上相当であると認められない場合は、
その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

(解雇)
第十六条  解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、
社会通念上相当であると認められない場合は、
その権利を濫用したものとして、無効とする。
――――――――――――――――――――――――――――――

横領した額、頻度、社内の防止体制、事業場内で起きた事件か否か等によって
結論も変わりえますが、
懲戒解雇、有効になる確率は高いと思います。

ただ、懲戒解雇を有効にしやすくするためにも、
次の点は押さえておいてください。

1 懲戒処分の種別や程度、事由等について就業規則に明記すること
2 日頃から不祥事件の防止策を講じておくこと
3 「こうした防止策を講じています」という証拠を残しておくこと

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抽象的な解雇理由しか告げずにした解雇は有効か?

ある従業員を「勤務成績不良のため解雇する」と伝え、解雇しました。
後日、その従業員が「具体的な理由も告げずに解雇したのは無効である」
と主張してきました。

会社としては、言いたいことはたくさんありますが、
具体的内容を本人に伝えるのも本人に気の毒ですし、
極力円満に解決したいと考え、具体的なところは言及しなかったのです。

この場合、Aに対して具体的な理由を告げないと、
解雇は無効になってしまうのでしょうか?

普通解雇、懲戒解雇を問わず、解雇をする場合は、
客観的に合理的な理由を欠き、
社会通念上相当であると認められない場合は、
その権利を濫用したものとして、無効とされます。
(労働契約法第16条)

したがって、解雇をするには、合理的な理由が必要とされます。

したがって、解雇の効力が訴訟で争われたような場合、
会社は、解雇の具体的理由を裁判所で主張・立証することになり、
会社の言い分が認められなければ、
解雇権の濫用として解雇が無効になります。

しかしながら、これは解雇にあたって実体的な理由があるかどうか、という問題であり、
その理由を本人に伝える必要があるかどうかは別問題です。

会社が解雇理由を伝えないことで、
本人を意図的に騙そうとしたというような
特殊事情がある場合等は話は変わりますが、
一般的には、解雇の理由となった具体的事実を
本人に伝えることまでは法的には要求されていません。

判例も次のように判示しています。

「解雇理由は、これを被解雇者に通知しなければならないという根拠はない」
(昭和28年12月4日、最高裁第二小法廷、熊本電鉄事件)

なお、平成15年労働基準法改正により、
従業員が解雇の予告がされた日から退職日までの間において、
解雇理由を記載した文書の交付を請求した場合は
会社は遅滞なくこの文書を交付しなければならなくなりました。

この解雇理由についても、
特段詳しく具体的に記載する義務はありません。

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就業規則がないと解雇はできないか?

就業規則の作成義務や届け出義務がある会社であるにもかかわらず、
就業規則の作成や届け出を行っていない会社で、
従業員を解雇する事件が起きました。

従業員は

「就業規則がそもそもないのに、何を根拠に解雇するのか?
 解雇なんてできるはずがない!」

と主張しています。

就業規則がない会社は従業員を解雇することはできないのでしょうか?

結論から申し上げますと、解雇することは可能です。

もちろん、就業規則の作成・届け出義務を怠っているという、
労働基準法違反の問題はありますし、
解雇権の濫用ですとか、解雇に当たり正当な理由があるか等の
ハードルを越える必要はあります。

ただ、そうは言っても、雇用契約の性質上、
会社は本来的に従業員を解雇する権限を持っています。

上記で述べた、解雇権の濫用や、解雇に当たり正当な理由があるか等というのは、
会社が本来持っている解雇権の行使の仕方の問題であり、
解雇権そのものが失われるということではありません。

また、就業規則の作成や届け出義務に違反していたからといって、
それを理由に、当然にその従業員を解雇できなくなるいわれはないと
裁判官も判示しています。
(秀栄社事件:昭和46年11月1日、東京地裁判決)

なお、解雇権の行使の仕方という点については、
労働契約法第16条で次のような制限がかけられています。

---------------------
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、
社会通念上相当であると認められない場合は、
その権利を濫用したものとして、無効とする。
---------------------

何をもって「客観的に合理的な理由」「社会通念上相当」かは、
最終的には裁判で争うことになりますが、
いずれにしても、トラブルに発展すると、
会社にとっても、そしておそらくはご本人にとっても、
とんでもない重荷を背負うことになります。

さらに、整理解雇ともなると、整理解雇の4要件(4要素ともいう)と言って、
さらに高いハードルが待ち構えています。

そこで、実務の上では極力解雇という選択肢を選ぶ前に
「退職勧奨→本人受諾」という流れを作るよう、
お客様にご提案をすることが多いです。

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配置転換・転勤命令が無効となる場合ってあるの?

原則的には、勤務地限定採用、職種限定採用でない限り、
配置転換や転勤命令は有効となります。

ただ、次の場合は、配置転換や転勤命令権の濫用とされ、
その命令は無効とされます。

1 業務上の必要性がない

一番イメージがしやすいのは、退職を促すための嫌がらせとしての
配置転換・転勤命令です。

2 合理的理由がない

例えば、退職勧奨を拒絶したことへの報復措置としての命令や、
結婚・出産を理由としてなされた命令です。
(昭和47年8月24日 横浜地裁判決 東洋鋼鈑事件)

3 労働条件が著しく低下する

配置転換や転勤命令によって給与額が
日常生活に影響を与えるほどに減額となる場合等が該当します。
(昭和34年3月14日 和歌山地裁判決 和歌山パイル織物事件)

4 職種・勤務場所について合理的な予想範囲を著しく超える

入社時の労働契約を締結した際の事情、これまでの社内慣行、
配置転換による新旧職務間の差等を総合的に判断して、
合理的な予想範囲を超えている場合が該当します。
(昭和48年12月18日 大阪地裁判決 名村造船所事件)

5 技術・技能等の著しい低下となる

特に技術系、職人系の従業員については、
それらの技術・技能の成長を著しく阻害するような
職種の変更等は配置転換権の濫用とされます。
(昭和47年10月23日 名古屋地裁判決 三井東圧化学事件)

6 私生活に著しい不利益が生じる

原則としては、私生活は会社がよくも悪くも立ち入ることではありませんので、
配置転換や転勤によって私生活が不便になる・不利益を被ると
従業員が主張しても、それを理由に
配置転換・転勤命令権が無効になるわけではありません。

ただし、これらの不便さ・不利益さが通常予想される範囲を超えて、
極めて著しいレベルである場合は、正当な拒否理由となるとされています。
(昭和43年8月31日 東京地裁判決 日本電気事件)

7 不当労働行為に該当する

  労働組合法第7条第1号・第3号違反となります。

8 思想・信条その他差別待遇に当たる

  労働基準法第3条違反となります。

大半の項目に共通して言えるのは
「著しい」ってどのくらい?という疑問です。

会社と従業員間でトラブルになると、こうした点が争点となり、
裁判で決着をつけるということになります。

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