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中野人事法務事務所中野 泰(なかの やすし)

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抽象的な解雇理由しか告げずにした解雇は有効か?

ある従業員を「勤務成績不良のため解雇する」と伝え、解雇しました。
後日、その従業員が「具体的な理由も告げずに解雇したのは無効である」
と主張してきました。

会社としては、言いたいことはたくさんありますが、
具体的内容を本人に伝えるのも本人に気の毒ですし、
極力円満に解決したいと考え、具体的なところは言及しなかったのです。

この場合、Aに対して具体的な理由を告げないと、
解雇は無効になってしまうのでしょうか?

普通解雇、懲戒解雇を問わず、解雇をする場合は、
客観的に合理的な理由を欠き、
社会通念上相当であると認められない場合は、
その権利を濫用したものとして、無効とされます。
(労働契約法第16条)

したがって、解雇をするには、合理的な理由が必要とされます。

したがって、解雇の効力が訴訟で争われたような場合、
会社は、解雇の具体的理由を裁判所で主張・立証することになり、
会社の言い分が認められなければ、
解雇権の濫用として解雇が無効になります。

しかしながら、これは解雇にあたって実体的な理由があるかどうか、という問題であり、
その理由を本人に伝える必要があるかどうかは別問題です。

会社が解雇理由を伝えないことで、
本人を意図的に騙そうとしたというような
特殊事情がある場合等は話は変わりますが、
一般的には、解雇の理由となった具体的事実を
本人に伝えることまでは法的には要求されていません。

判例も次のように判示しています。

「解雇理由は、これを被解雇者に通知しなければならないという根拠はない」
(昭和28年12月4日、最高裁第二小法廷、熊本電鉄事件)

なお、平成15年労働基準法改正により、
従業員が解雇の予告がされた日から退職日までの間において、
解雇理由を記載した文書の交付を請求した場合は
会社は遅滞なくこの文書を交付しなければならなくなりました。

この解雇理由についても、
特段詳しく具体的に記載する義務はありません。

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就業規則がないと解雇はできないか?

就業規則の作成義務や届け出義務がある会社であるにもかかわらず、
就業規則の作成や届け出を行っていない会社で、
従業員を解雇する事件が起きました。

従業員は

「就業規則がそもそもないのに、何を根拠に解雇するのか?
 解雇なんてできるはずがない!」

と主張しています。

就業規則がない会社は従業員を解雇することはできないのでしょうか?

結論から申し上げますと、解雇することは可能です。

もちろん、就業規則の作成・届け出義務を怠っているという、
労働基準法違反の問題はありますし、
解雇権の濫用ですとか、解雇に当たり正当な理由があるか等の
ハードルを越える必要はあります。

ただ、そうは言っても、雇用契約の性質上、
会社は本来的に従業員を解雇する権限を持っています。

上記で述べた、解雇権の濫用や、解雇に当たり正当な理由があるか等というのは、
会社が本来持っている解雇権の行使の仕方の問題であり、
解雇権そのものが失われるということではありません。

また、就業規則の作成や届け出義務に違反していたからといって、
それを理由に、当然にその従業員を解雇できなくなるいわれはないと
裁判官も判示しています。
(秀栄社事件:昭和46年11月1日、東京地裁判決)

なお、解雇権の行使の仕方という点については、
労働契約法第16条で次のような制限がかけられています。

---------------------
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、
社会通念上相当であると認められない場合は、
その権利を濫用したものとして、無効とする。
---------------------

何をもって「客観的に合理的な理由」「社会通念上相当」かは、
最終的には裁判で争うことになりますが、
いずれにしても、トラブルに発展すると、
会社にとっても、そしておそらくはご本人にとっても、
とんでもない重荷を背負うことになります。

さらに、整理解雇ともなると、整理解雇の4要件(4要素ともいう)と言って、
さらに高いハードルが待ち構えています。

そこで、実務の上では極力解雇という選択肢を選ぶ前に
「退職勧奨→本人受諾」という流れを作るよう、
お客様にご提案をすることが多いです。

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